高級コード式ヘッドホン比較 プレーンな音のデノン
「年の差30」最新AV機器探訪

高価格帯の製品が好調なヘッドホン。調査会社GfKジャパンによると、「ヘッドホン・ヘッドセット」市場で3万円以上(税抜き)の製品が占める割合は、2012年の5.8%に対して、16年には13.7%まで伸びているという(金額構成比)。
オーディオ評論家の小原由夫さんによると「3万円クラスになるとメーカーの個性が楽しめる」という。そこで小原さんに3万円クラスでお薦めのワイヤレス3機種とコード式3機種を選んでもらい、平成世代のライター(小沼)が聴き比べてみた。
前編(「高級ヘッドホン バランスか個性か、決め手は利用時間」)では、昭和生まれの小原さんとライターでは、ベストに選んだ機種が分かれる結果になった。コード式のヘッドホンではどうなるのか。
音質的なクオリティーはまだコード式が優れる
小原由夫氏(1964年生まれ、最近のヘビロテは坂本龍一『「怒り」オリジナル・サウンドトラック』) 前回はワイヤレスタイプのヘッドホン3機種を聴き比べましたが、今回はワイヤードタイプ、コードでオーディオ機器と接続するヘッドホンを試聴しましょう。
小沼理(1992年生まれ、最近のヘビロテはtofubeats『FANTASY CLUB』) 基本的な質問ですが、やっぱり音質はコード式のほうが優れているんですか。
小原 ワイヤレスもずいぶん良くなりましたが、音質的なクオリティーの差はまだありますし、有線ならではの安心感もある。ワイヤレスは、ケーブルに関わるあらゆる煩わしさからは解放されますが、まだ伝送クオリティーに難がある点や、音が途切れるといった通信環境の問題もつきまといます。一方でコード式にも、断線する可能性や、ケーブルが衣服に接触したときの「タッチノイズ」などの問題があります。通勤ラッシュ時に使うと、コードが他の人に引っかかる危険もありますし。
小沼 一長一短ですね。
小原 その通り。それではさっそく聴き比べてみましょう。用意したのは次の3機種です。
・DENON/AH-MM400(2万7450円)
・Audio-Technica/ATH-CKR100(4万2940円)
※前編で試聴したヘッドホン
・BOSE/QuietControl 30 wireless headphones(3万4560円)
・SONY/MDR-1000X(4万3070円)
・ONKYO/W800BT(1万9550円)
※価格はメーカーのオンラインショップ、または家電量販店ネットショップで確認。すべて税込み
小沼 試聴に用いる音源は、ワイヤレスヘッドホンのときと同じ土岐麻子さんのアルバム『PINK』です。Apple Musicのストリーミング(端末はiPhone 5s)と、徹底的に音質を追求したAstell&Kern AK380+AK380AMPのハイレゾ音源で聴き比べます。
JVCケンウッド/生音を再現するモニタリング用

小原 今回はJVCケンウッドの『HA-MX100-Z』から始めましょう。これはミュージシャンがスタジオレコーディングの時に使うことを意識したヘッドホンですね。数多くの有名ミュージシャンが利用するビクター青山スタジオとの共同開発モデルです。レコーディングスタジオ用ヘッドホンといえば、ソニーの『MDR-CD900ST』が有名ですが、それに代わるモノを作ろうとしたのがこのヘッドホンです。
小沼 すごく軽いですね。長時間つけていても疲れなさそうです。
小原 スタジオモニター用ヘッドホンにとって、長時間使っていても疲れないことは重要ですから。あと耐久性も求められます。
小沼 左右のハウジング部分が青と赤に塗り分けられていますね。
小原 左右が見分けやすいようにという配慮ですね。これも使いやすさを追求したからでしょう。
小沼 では、まず、iPhone 5SでApple Musicで聴いてみます。

小沼 音がナチュラルで、過剰な色づけがされていないように感じますね。
小原 スタジオモニターは録音した音をそのまま出すことが重要なんです。ミュージシャンが出した音をそのままプレイバックすることが大事なので。ハイレゾで聴くとどうですか?
(音楽プレーヤーをAK380に変更)
小沼 歌声がすごく生っぽいです。ささやくようなコーラスが、すぐ横で歌っているように聞こえます。前回、ハイレゾで聞いた時にも気付かなかった細かな音にも意識がいきます。
小原 前回試聴したヘッドホンは音をBluetoothで飛ばしていたので、ハイレゾ音源とはいえ、CD並みの音質になってしまいます。一方、今回はケーブルでつながっているので、96kHz/24bitの音源をストレートに聴いている。だから音質的にはワイヤレスより有利です。それが音の生っぽさにつながっているのかもしれないですね。最近のワイヤレスは素晴らしいし、僕自身も楽しんで使っていますが、そこはやっぱりまだワイヤレスがワイヤードに勝てない部分だと思います。
デノン/木の響きを生かして女性にも人気

小沼 続いてはデノンの『AH-MM400』。木の素材を使ったヘッドホンなんですね。
小原 木質系材料を使ったイヤーカップは、昔から音質にこだわったモデルに用いられてきました。金属や樹脂系とは異なる、自然な響きになるんです。デノンは、数あるヘッドホンメーカーの中でも、独自路線を取ることが多い企業。この製品は大人向けのデザインですが、若い女性にも人気があるみたいですね。
小沼 コード式といっても、このヘッドホンはハウジングからコードが取り外せるんですね。初めて見ました。
小原 これも最近のトレンドです。コードが断線したときに交換できるし、好みで通話機能付きやリモコン付きのコードに変えることができます。ただ接点が増えることを嫌う人もいますが、マーケットでは高い評価を得ているようです。

小沼 聴いてみると、これまでで一番音がいい気がします。音がナチュラルで、かつメリハリがちゃんと効いています。
小原 アメリカンウォルナットの響きのよさに加えて、使っているドライバーユニット(ヘッドホン内部の振動板)がすごく優秀なんですよ。このヘッドホンが使っているのは「フリーエッジ」と言って、国内メーカー各社のシンボリックなモデルに採用されていることが多いドライバーユニットの構造です。こういうパーツが使えるのが「ツーランク上のヘッドホン」の良さなんです。
小沼 ナチュラルという感覚はJVCも一緒ですが、デノンのほうがよりメリハリが効いている気がします。これはヘッドホンの音作りが関係しているのですか。
小原 そうですね。デノンは音にメリハリと明瞭さをつけています。一方、JVCはスタジオユースを想定していますから、ヘッドホンの効果で音がよく聞こえるのは避けないといけない。出した音をいかにそのまま聴けるかがポイントですから。
小沼 なるほど。このヘッドホンに関しては、ナチュラルでありながらメリハリのある音作りが、聴きやすさにつながっている気がします。どんな音楽を聴いてもフィットしそうです。
オーディオテクニカ/低音強めで今の音楽にフィット

小原 最後はオーディオテクニカの「ATH-CKR100」です。
小沼 これもコードが着脱式なんですね。
小原 この製品の特徴はドライバーユニットです。現在のイヤホンは振動板の仕組みからダイナミック型とBA(バランスドアーマチュア)型の2タイプに大別されるのですが、オーディオテクニカはダイナミック型のイヤホン作りに誇りを持っているメーカー。そんな彼らがダイナミック型のイヤホンの最高峰を目指して作ったのが、この『ATH-CKR100』です。
小沼 音作りには何か特徴があるんですか。
小原 ダイナミック型の振動板を2枚配置し、両方を動かすことで低音を増強しています。これは『デュアルフェーズ・プッシュプル』と呼ばれる構造です。

小沼 確かに低音が強く聞こえますね。高音は他のヘッドホンのほうがクリアに聞こえたかも。『PINK』を聴いても、ボーカルや打ち込みの華やかな音よりビートが強く出ています。
小原 ある意味、デュアルフェーズ・プッシュプルは今の音作りに合ったものを志向しています。そのぶん、低音のインパクトがより体感できるよう意識しているのかもしれませんね。ハイレゾだとどうですか。
(音楽プレーヤーをAK380に変更)
小沼 さっきよりもバランスが整って、高音もきちんと聞こえます。それでも低音はしっかりと出ている。聴く曲によっては迫力が増しそうですね。ただ自分で購入するなら、もう少しプレーンなものを選ぶ気がします。
高級ヘッドホンならアーティストの思いが聞こえる
小原 コード式のヘッドホン3機種を試聴しましたが、どれが気に入りましたか。
小沼 デノンでしょうか。プレーンなものを求める自分の耳にマッチしていて、いちばん音が良いと感じました。通勤中にも使ってみたいと思いましたし。
小原 JVCもプレーンですが、ある種のメジャーメント(測定)ツールですから、「音作り」とは別なんですよね。今回、キャラクターをつけていたのはデノンとオーディオテクニカ。僕は低音がしっかり出ているオーディオテクニカがいいと思いました。
小沼 前編のワイヤレス編と同じく、小原さんは音作りに個性があるもの、僕はプレーンでナチュラルなものと、前後編で結果は一致しましたね。今回は音源もストリーミングとハイレゾの2種類を聴き比べましたが、どちらの音源でもイヤホン、ヘッドホンの個性がはっきりわかるのが面白かったです。
小原 では6機種の中で小沼さんが買うとしたら?

小沼 ボーズの『QuietControl 30』です。ノイズキャンセリングがしっかり効いて、細かな音まで聞き取りやすいのが気に入りました。デザインも洗練されていますよね。スポーティーな服装にも合わせやすそうですし。

小原 そうか、デザインも重視するんですね。僕らは音が良ければデザインには多少目をつぶることも多いのですが。
小沼 ヘッドホンは外で使用するものなので、やはり使っているときの印象は気になります。デザインでいえば、ソニーの『MDR-1000X』も格好良かったですね。
小原 確かに街を歩いていると、ヘッドホンがファッションになっていると感じます。そういうことも含めて、モノの選び方の違いがいろいろ見えてきて面白かった。今回取り上げた6機種は作りが緻密なものばかり。音質だけでなく、ファッション性など、自分のスタイルを踏まえて選べば、どれを買っても損はしないし、愛着を持って使えると思います。このクラスのヘッドホンを使うことで、好きなアーティストがどんな思いやコンセプトで、楽曲なり、アルバムを作ったか、その細部の構造をより鮮明に享受できると僕は思うんですよ。ぜひ音楽を楽しんでほしいですね。

1964年、東京生まれ。自宅の30畳の視聴室に200インチのスクリーンを設置しサラウンド再生を実践する一方で、6000枚以上のレコードを所持、アナログオーディオ再生にもこだわる。近著は『ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事』(DU BOOKS)。最初に買ったレコードは沢田研二『追憶』(1974)。
小沼理
1992年、富山県生まれ。ライター・編集者。音楽は自宅のオーディオスピーカーかiPhoneで聴くことが多い。Apple Musicへの依存度が日に日に高くなっている一方、最近はカセットテープにも興味がある。FUJI ROCK FESTIVALには2011年から毎年参加。最初に自分で買ったCDは東京事変『群青日和』(2004)。
(ライター 小沼理=かみゆ)
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