還暦過ぎても若者向けのアルバイトがしたい
著述家、湯山玲子
還暦を過ぎましたが、働くのが好き。まだ若い人と同等にやれると思っており、若者向けアルバイトに応募してしまいます。でも、雇ってもらえない。当たり前とわかってはいますが思いを断ち切れず、応募し続けています。自分にどう落とし前をつければよいか教えてください。(千葉県・60代・女性)
アメリカのダイナー(小食堂)に行くと、老齢の女性がばっちりメークして、若者と一緒に客のオーダーをとっていたりします。イギリスのアンダーグラウンドなクラブでは、髪を真っ赤に染めてはいるが、どう見ても70歳前後という女性が、エントランスで客を差配していました。そういう光景を見るたびに、年齢で働き口を狭めない欧米の労働環境の自由さをいつもうらやましく思いますが、そんな光景は日本ではまず見ることがない。
なぜならば、日本人の間にはまだまだ儒教的な年齢ヒエラルキー、つまり、年下は年上の人間と同格ではなく、尊ばなければいけない、という空気が存在するから。このことは日本語に「敬語」の存在がある限り、続いていくことは間違えがないでしょう。
相談者は還暦を過ぎつつも、若者と横並びの条件で働きたいと思っていて、年下のボスの下、若者と一緒に叱られるような状況があったとしてもオッケーという覚悟もきっとあるはず。
しかし、意欲は現実的には実っていない。なぜならば、絶対に彼女よりも年下となるボスの方がそれをしんどいと思ってしまうから。バイトがボスよりも年下ならば、遠慮無く仕事をふれるし、指導や叱責もできる。たとえば「何度、同じことを言ったらわかるんだ!? ウチの店の信用をなくしかねないぞ」という言い方を年下には抵抗なく言えますが、還暦以上にそれをストレートに伝えることを考えると、なかなか難しそうです。
では、どうするか。システムとして上下関係が存在してしまう職場ではなく、自分の技量を売る、という対等な関係でもって若者と接すれば良いのです。友人の母親はやはり還暦以上ですが、整理整頓が大得意。友人の口利きで、通いの家政婦を始めたところ(逃げ恥のガッキーみたいですね)、料理の上手さと人柄が評判になって、展覧会のオープニングや撮影のケータリングの料理人として活動を始め、人気者になっています。実は私の母は、長い間手品を習っていてかなりの腕前。知り合いのファッションデザイナーの誕生会に彼女を仕込んだら、自ら、松旭斎天勝ならず、辛気くさいトン勝を名乗って手品を披露して大ウケ。若者に囲まれて、相当楽しかったようです。
もし私だったら、この人生相談コラムを書き続けられている能力?を元手に、知り合いのバーの片隅で「よろず人生相談所」を開いて若者に説教するとしましょうか。
[NIKKEIプラス1 2017年2月4日付]
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