おしゃれと無縁で60年 おじいさんになりそうです
作家、石田衣良
60歳になったばかりの女性です。これまでほとんどおしゃれに無縁で生きてきてしまいました。このままではおじいさんになりそうで困っています。(北海道・女性・50代)
ぼくは中学2年のクラスの同窓会に毎年顔をだしています。昔話をするのも楽しいし、クラスメイトの成れの果ての気のおけない人間模様を眺めているのが、しみじみ興味深いのだ。
紅顔の中学生も50歳を過ぎると、腹が出てくるし、髪もだいぶ薄くなってくる。まあ誰も加齢のダメージは避けられないので、外見はみな似たり寄ったり。ところが、その男性陣でも人によって、かつての女子が集まる男と、ぜんぜん寄ってこない男がいる。
同じように老眼で中年太りで薄毛なのに、どこが違うんだろう。ある同窓会でその差に気づき、ぼくは手を打ちそうになりました。女性は50を過ぎても、きちんと服装に気をつかい、おしゃれをしている男性のところに自然に集まるものなのだ、と。
なぜ、おしゃれな人には魅力があるのか。それにはいくつかの理由が考えられます。人生を楽しんでいる余裕ある雰囲気を自然に周囲に伝えられる。当人のセンスや文化的な背景をさりげなくアピールできる。いくつになっても性的な魅力をあきらめない決意表明ともなる。
あなたはおしゃれにこれまで興味がなく、このままでは魅力ある成熟した女性ではなく、ただのつまらないおじいさんになるのではと恐れています。だとしたら、ぜんぜんだいじょうぶ。恐れをもっているのが、なにより大切だとぼくは思います。
あきらめてしまった人は、すでにすべてを投げだしてしまっているので、恐怖も不安も感じないものです。このままでいいのかなんて気にする心づかいもありません。
女性の平均寿命が90歳に近づきつつある現代、60歳ならまだまだ若い。ぴちぴちといってもいいくらいです。これからいくらでも自分の魅力を輝かせることができるし、自分のイメージだって変えられる。
まず最初の一歩として、話のあう女友達といっしょに春のコートでも一枚探しにいってください。そのコートを中心にコーディネートしてみるのもいいし、店員さんや友人にあなたに似あう一着を推薦してもらうのもいい。すこしずつ自分の好きな服を集めていくのです。
その際の方針については、ぼくなどより女性ファッションに詳しい女友達や女性誌のほうで調べてください。大切なのはあきらめないこと、人生をたのしむこと、いくつになっても女性でいること。自分のセンスを生かして身のまわりの品に気をつかい、暮らしを彩り豊かにしていく。そういう60代は素敵だと思うなあ。ちなみにこれは男性にもあてはまるので、気を抜かないでがんばりましょうね、ご同輩。
[NIKKEIプラス1 2017年1月28日付]
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