「アメ車」を払拭できるか キャデラックの新セダン
ゼネラルモーターズ・ジャパン(以下GMジャパン)は、キャデラックブランドの象徴となるフラッグシップセダン「CT6」を2016年4月26日に日本で初披露した。日本での販売開始時期は2016年9月とされており、税込み価格は998万円。このモデルの開発には120億ドル(約1.3兆円)を費やしており、2020年までにキャデラックが投入する8種類の新型車の先駆けとなる一台だ。新型モデル群開発の方向性を世に問う試金石となる。
グラム単位でボディーを軽く
トップモデルだけにフルサイズをうたうボディーは、全長5190×全幅1885×全高1495mmと堂々たる大きさだが、最先端のマルチマテリアル技法を採用して軽量なボディー構造を実現しているという。高張力アルミニウムと高張力鋼板など、13種類もの素材を組み合わせて使い、ボディー構造は強固にしながら可能な限り軽量化した。この成果は、動的性能、燃費、静粛性の向上に大きく貢献しているという。
エンジン、トランスミッションともに新開発
日本仕様のパワートレインは、自然吸気エンジンのみ。新開発の3.6L V型6気筒DOHCエンジンに、GM製の新開発8速ATトランスミッションを組み合わせ、最高出力は340ps、最大トルクは39.4kgmを発揮するという。また燃費対策として気筒休止機能も加えられている。駆動方式は、様々な天候や路面状況で安定して走れるように4WDを採用しているが、後輪操舵機構である「アクティブ・リアステア」を搭載することで、ひとクラス下に当たる「CTS」と同等の回転半径を実現している。このため、サイズの割に取り回しにも優れる。
CT6は最上級モデルであり、ショーファーカー(オーナー自らが運転するのではなく、お抱えの運転手に運転を任せるクルマ)としてのニーズが高いが、キャデラックらしく、ドライバーズカーとして運転する楽しみのあるモデルを目指したという。
内外装は最新キャデラックデザインと共通
エクステリアはコンパクトセダン「ATS」やラグジュアリーSUV「エスカレード」など、力強くスポーティーな最新キャデラックに通じるもの。大型セダンながら軽く俊敏であることを強調したスタイルになった。そして、アメリカンラグジュアリーを体現したモダンで華やかなインテリアは、最新の機能を加えアップグレードしながら、キャデラックの伝統的であるクラフトマンシップも感じさせる上質で居心地の良い空間へと仕上げた。
Boseの新オーディオシステムはスピーカー数34個
安全面は先進的だ。車両周囲360度の俯瞰(ふかん)映像を映し出す「サラウンドビジョン」、歩行者との衝突防止・被害軽減を図る「フロント歩行者対応ブレーキ」、夜間の走行中に人や動物を検知し赤外線映像をモニター内に表示することができる「エンハンスドナイトビジョン」、カメラを用いることで後方視界を300%拡大させた「リア カメラ ミラー」などを標準装備する。
また、フラッグシップモデルらしく後部座席の快適装備も充実しており、左右独立式の後席エンターテインメント、マッサージ機能、空気イオン化及び除菌機能付きクワッド ゾーン 空調システムなどを備えている。
オーディオは30年以上にわたって採用してきたBose製。近年は、ノイズキャンセル機能などを提供し静粛性にも貢献している。日本仕様のCT6には、キャデラック初となる新開発の「Boseパナレイオーディオシステム」を全車に標準搭載する。車内には34個ものスピーカーが搭載され、臨場感あふれるサウンドが楽しめるという。
アメ車のイメージを変えられるかが問われる
一時は日本で最も知られた高級車だったキャデラックだが、今や米国産高級車自体がニッチな存在といえる。GMもキャデラックが米国・中国以外では少数派だと認識しており、欧州勢を研究し、機能や性能の面で肩を並べるようになった。特にキャデラックは、1980年~2000年頃に生まれた「ミレニアル世代」と呼ばれる若い世代を意識し、先進機能だけではなく、走行性能も重視しているという。
例えば、SUVモデルの「エスカレード」のようにアメ車らしい大型モデルが存在する一方で、コンパクトなセダンであるキャデラック「ATS」のボディーサイズはメルセデス・ベンツ「Cクラス」と同等だ。エンジンサイズについても、直列4気筒ターボを搭載するなど、"大きくて大排気量"というキャデラックのイメージは過去のものとなりつつある。
フォード撤退を機に、日本ではアメ車の市場規模が縮小すると見る人は多いかもしれない。しかしフォードの中でも「エクスプローラー」や「マスタング」などは根強い人気があり販売数も安定。日本市場ではニッチな存在かもしれないが、立ち位置はしっかりと確保してきた。
ただし、今、アメ車の人気はSUV中心で、セダンは圧倒的に欧州車、特にドイツ車の人気が高い。その中でCT6は、人とは異なるものを求める、商品に対する目も厳しいこだわりが強いユーザーをターゲットにしている。
今回のCT6に始まるキャデラックの一連の新型車種群は、過去のアメ車に対するネガティブなイメージを払拭し、こうしたターゲットに魅力をアピールしていけるのか。手腕が問われることになる。
(文・写真 大音安弘)
[日経トレンディネット 2016年6月3日付の記事を再構成]
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