カルナバケーション公演 日常と一線画したハレの場
音楽評論家 佐藤英輔
村田匠をリーダーとする大所帯のバンド「カルナバケーション」のライブが5月22日、東京・原宿クロコダイルで開かれた。カーニバルとバケーションの2語をつなげたバンド名からも想起されるように、彼らは日常とは一線を画したハレの場を世に送り出そうとしているポップバンドである。
バンドの音をリードしながら表情豊かに歌う村田をはじめ、ステージに立ったミュージシャンは総勢11人。ギター、キーボード、ベース、ドラムといった通常のバンドにいる奏者に加え、ブラジルのパーカッション担当が3人、さらにゲストのブラスセクションも3人加わって、にぎやかな演奏を繰り広げる。
この打楽器と管楽器の奏者が6人もいるという編成が、カルナバケーションの個性を際立たせている。曲自体はサザンオールスターズをほうふつさせる、とても親しみやすいポップなものだから、それを普通の編成でやったとしたら「快活なJポップの担い手」と受け止められるだろう。
だが、彼らはブラジル音楽が抱える様々な躍動や揺れをそこに加え、さらにはファンクやジャズともつながったカラフルな管楽器アンサンブルを重ねていく。
そうすることで、村田の書く親しみやすい楽曲群が、あっと驚く高揚感や肉感性、色気を帯びるようになり、大所帯のバンドで演奏する効用が鮮やかに浮かび上がるのである。
この日はカルナバケーションへの改名1周年を祝う記念公演でもあった。前身は編成も音楽性も今とほとんど変わらない「カンタス村田とサンバマシーンズ」だった。早稲田大学のラテンアメリカ協会というブラジル音楽の愛好サークルを母体として2008年にスタートしている。つまり前身と合わせれば活動歴はすでに8年に及ぶのである。サンバマシーンズは2010年にフジロックフェスティバルの新人ステージに出演し、2枚のアルバムを発表している。
彼らはカルナバケーションに改名してから1年の間に7枚のシングルCDを発表してきた。この晩は2部構成のライブの中で、シングルに収録した14曲をすべて披露した。さらにサンバマシーンズ時代の人気曲や新曲なども盛りこんだステージは2時間半を超えたが、それぞれの曲が確かな趣を持つため、飽きることなく聴き通せてしまう。
後半に演奏した「だれも知らない」は昨年作られたラグビーを題材とする雄大な曲で、この時ばかりは観客は静かに聴き入った。リーダーの村田の2歳下の弟は、ラグビー日本代表のキャップも持つ現役バリバリの村田毅選手だ。トップリーグのNECグリーンロケッツとスーパーラグビーのサンウルブズに所属し、大型の外国人選手に対抗できる日本人フランカーとして活躍が期待されている。「あの村田選手のお兄さんがバンドをやっている」という情報を入り口にカルナバケーションを聴き始めたラグビーファンも少なくないようだ。
マイクの前に立つ村田匠は、巨漢の弟とは対照的に細身だが、やはりステージ上の動きを見ていると運動神経の良さがうかがえる。曲によってはサンバダンサーも出てくるなど、ステージ運びは練られていて、とにかく見ていてウキウキさせられる。演奏力も確かだし、見事なライブバンドだと思う。
親しみやすい魅力的なJポップテイストと、本格的なブラジル音楽やファンク要素ががっちりと絡み合う。日本語で歌う大衆的なポップバンドでありながら、抱える音楽性がこれほど幅広いという存在はそれほど多くないだろう。しかも、様々な音楽性が無理なく同居し、エンターテインメント性とつながっている。かなり過小評価されているバンドといえそうだ。今後の飛躍の可能性を大いに感じさせるライブだった。
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