遅咲きのロックバンド怒髪天 「言いたいこと歌う」
50歳目前、多くの人に勇気
和を感じさせる骨太のバンドサウンドに乗せ、熱く硬派なメッセージを歌う4人組ロックバンド、怒髪天。ボーカルの増子直純が出演したCMがお茶の間で話題になったのが2009年。初の日本武道館は、結成30周年を迎えた14年となんとも遅咲きだが、信念を曲げずに歩んできた結果だ。
「もともとがパンクバンドで、世間にかみ付くのが信条。生活に苦労してでも、感じたことを歌えるほうが性に合ってた。全員がバイトを辞めたのは40歳過ぎてた(笑)」(増子、以下同)
気骨あふれるバンドマンも今年50歳を迎える。約3年ぶりのアルバム『五十乃花』はそれを意識しながら制作された。
「50歳は『天命を知る』年齢。俺らの使命は何かと考えたとき、怒髪天というロックバンドをやり続けることだと思った。中二病じゃないけど、いい年して言いたいことを言い、空気を読まない。計算できる頭があったら、試聴機でかかる率が高い1曲目に『天誅コア』を置かないよ(笑)」
速く激しくたたみかけてくる重量感あるサウンドに圧倒されるこの曲は、今の怒髪天だから作れた曲だとうれしそうに笑う。「原点であるハードコアと今の俺らを象徴する"リズム&演歌"を思わせる和風のメロディーを融和させた、世界広しといえど日本でなきゃ生まれない曲だよね」
振り切った楽曲を鳴らせるのは、活動を重ねるほどに、ライブに足を運ぶ若いファンが増えるなど手応えを感じているからだろう。「生き方に古いも新しいもないと思うんだよね。俺らはどんなバンドマンよりも世間と関わってきたからお客さんの気持ちが分かる。そのせいか、若い頃と違って言いたいことを歌っても賛同してもらえるようになった。『セイノワ』もあえて誤解上等って気持ちで今伝えたいことを書けたね」
先行シングル『セイノワ』は、「世界は遂に此の俺達を/殺しにかかるつもりみたいだ」というショッキングな出だしで始まるが、聞き進めると「君のために死ねるとか/誰も喜びやしない/愛のために生きてやれ」と温かいメッセージにあふれている。活動三十余年を経てもなお、歌いたいことがなくならない。
「ラブソングだけを歌っていたら行き詰まっていたと思う。でも日々生きてれば何かしら必ず思うことがあるからね。楽器はできないけどぶちまけたい衝動が勝ってバンドを始めたくらいだから、言いたいことがなくなるなんてありえない。演奏も上手で見た目もかっこいい最近の若いバンドとは、似て非なるものかもしれないね(笑)」
武骨に己の道を進み続ける怒髪天は、これからも胸の内を叫び多くの人に勇気を与えるだろう。
(「日経エンタテインメント!」4月号の記事を再構成。敬称略、文・橘川有子 写真・佐賀章広)
[日経MJ2016年4月29日付]
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