一本気な父、9歳から僕の師匠
プロゴルファー 丸山茂樹さん
著名人が両親から学んだことや思い出などを語る「それでも親子」。今回はプロゴルファーの丸山茂樹さんだ。
――ゴルフを始められたきっかけはお父さんだとか。
「3歳のときプラスチック棒でピンポン球をパカパカ打つのが楽しくて。それを見ていたゴルフ好きの父が『これは才能があるかも』と思ったようですね。5歳頃には僕用のクラブが2本ありました。『男たる者、何か一本を極め、手に職を付けた方がいい』という考え方でした。でも、本当は碁打ちにさせたかったみたいです。囲碁、将棋が大好きで、大学時代はマージャンの全日本チャンピオンになったくらいですから」
――ティーチングプロにはつかず、ゴルフはお父さんに習われたのですね。
「学校から帰宅するとゴルフ練習場にすっ飛んでいく毎日。会社を経営していた父は僕に合わせて仕事を切り上げ、夜遅くまでつきっきりで見てくれました。でもスパルタではない。怒られたことも、強制されたことも一度もありません」
「でも、かえって不安になるんです。自発的に練習しなければだめなんだと学びました。個人スポーツであるゴルフは自己管理能力次第。この管理能力こそが才能だと、父はいろんな題材を例に話してくれました。碁盤を前に本を読む父に『何が面白いの』と聞くと『自分独りでいろいろと考えられる。ゴルフと似ている』。ゴルフというものを教えてくれました」
――ゴルフに限らず、教育に独自のお考えをお持ちだったようですね。
「とにかく褒める。個性をへし折ることなく、自由奔放に育ててくれたことにはただただ感謝です。実は僕、幼稚園にはほとんど行かなかったんです。やりたくない遊びを強いられるのが嫌で、父に理由を言ったら『行かなくていいよ』と。いろんな場で自分の意見をしっかり言えるようになったのも、父が好きなようにやらせてくれたおかげ」
「その代わり『人に迷惑をかけるな』と『弱い者いじめはするな』はよく言われました。父は正義感が強く一本気過ぎて不器用ですが、そこがいいところ。そして研究熱心。何でもコツコツと独学する。歴史小説やニュース番組が大好きで、お笑い番組が好きな僕とは正反対です。聞けば何でも調べて答えてくれる僕にとってはまさに辞書。今でも何でも相談するし、父子で話題に事欠かない。なにせ9歳からプロになるまでずっと父と一緒でしたから。今も昔も変わらず僕の師匠です」
――可能な限りの時間を息子に注がれたのですね。
「ゴルフで成功するなんてほんのわずかの確率です。自分の息子の将来をそれに賭けた父はまさにギャンブラー。父に家もゴルフ場もプレゼントしました。亡くなったときに後悔はしたくないので、親の夢をかなえるために今やれることはすべてやるようにしています」
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