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隠し味のせいでカレーが「不眠症」になると…

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

談笑一門でのまくら投げ企画、師匠からのお題は「カレー」とのこと。これまでのお題は「学校にいた、すごいアイツ」や「赤面! 恥ずかしかったこと」だったから、今回の「カレー」は異質感がすごい。前回担当の笑二も相当悩んだと言っていたけど、そりゃそうだ。カレーというテーマでどんな文章を書けばいいのか見当もつかないもの。

次回の師匠のまくらを楽しみにしつつ、今回も自分なりにテーマと向き合おう。

カレーについて何か思い出はあったかなぁと考えて、そういえば小学校の林間学校のとき以来、カレーを作ったことがないことに気がついた。普段はコンビニ飯ばっかりで自炊などしないのだけど、せっかくだからこの機会にカレーを作ってみようじゃないかと近所のスーパーへ買い出しに出かけた。

鳥のもも肉とジャガイモ、人参、シメジ、そしてカレーのルーを買って、早速カレーを作り始めた。ネットで作り方を調べながら、まずは具材を炒めて(鳥肉は皮面から焼いて香ばしさをアップしてみた)、水を入れて沸騰するまで待ちながらたまに灰汁をとって、沸騰した後にルーを入れたら、なんとカレーが出来た。こんなに簡単だったなんて!

何も考えず鍋一杯に水を入れてしまったから、ルーをどれくらい溶かしたらいいか全く分からないという重大事件に見舞われはしたけど、様子をみながら6片投入したらちょうど良い具合になったし、これからはわざわざコンビニ弁当のカレーを買う必要がなくなる。生意気にも隠し味にインスタントコーヒーを入れたりなんかもしつつ、コトコト煮込んでいるとちょうどご飯も炊きあがって、久しぶりに自炊での夕食が始まった。

お皿にまずは固めに炊いたご飯を大盛りで。そして、生まれて初めて自分一人で作ったカレーをお玉に2杯分たっぷりかけた。いただきます!

口の中にスプーンを入れた瞬間、衝撃が走った。

「う、美味い!!」

実家の母ちゃんのカレーに勝るとも劣らない味。少しだけニンニクチューブを絞っておいたことが功を奏したのか、むしろ母ちゃんのよりも美味いかも。あっという間に食べ終えた僕はニヤニヤしてしまった。なぜなら鍋一杯にカレーを作ってみて分かったのは、鍋一杯の量の凄まじさ。贅沢に2杯分もかけたけど、鍋の水位はほとんど下がっていなかったことから想像するに、下手したら向こう一週間くらいこの美味しいカレーを食べ続けることができそうだ。

さらに僕は知っていた。一晩寝かせたカレーがさらに美味しくなるということを。

今の段階でこんなに美味しいものが、明日になればもっと美味しくなるなんて!炊飯器にはご飯もたくさん残っている。いつもは朝起きるとアパートの下のコンビニまでわざわざ朝ご飯を買いに行っていたのに、明日はすでに家の中にご飯も、そしてとびきり美味しいカレーもある!「人生の絶頂だな」と思った。幸せすぎる。

その晩は布団で横になっても、翌朝食べるカレーが楽しみ過ぎてなかなか寝付けなかった。

2時3時と夜は更けていくけど、全然眠くならない。ふすま一枚隔てた台所には自分だけの絶品カレーがあるのだ。遠足前夜の心持ちだ。

4時半を過ぎて、いい加減寝ないと明日の仕事にも影響するなぁと思ったから、ひとまず落ちつくために麦茶を飲むことにした。台所に一歩足を踏み入れて、僕はギャッと悲鳴を上げた。

カレーが起きていたのだ。

「おい、何やってんの!」と僕。

「すんまへん」とカレー。

「もう夜中だから、早く寝なよ!」とカレーに小言を言いながら冷蔵庫を開けたら、麦茶が切れていた。仕方ないからパジャマ姿のままアパートの下にあるコンビニへ麦茶を買いにいった。外はすでに少しだけ明るくなっていたから早く寝なきゃなぁとか思いながら自宅に戻ると、僕は「はてな?」と思った。電気を消して出たはずなのに、電気がついている。「もしかして……」と思いながらゆっくりリビングに向かうと、案の定、カレーがソファーでくつろぎながらテレビを見ていた。

「おい、何やってんの!」

「すんまへん」

「『すんまへん』じゃないよ!もう寝なって!」

「分かりました」

「ちゃんと寝なよ!」

「……」

大声でカレーを叱りつけたから余計に目が覚めてしまって、結局一睡もできないまま起きる時間になった。イライラしながらカレーを食べて、余計にイライラした。昨日と全く同じ味で、少しも美味しくなっていなかった。カレーが寝てくれなかったせいで、一晩寝かせたカレーじゃなくて昨日と全く同じカレーだったのだ。

出発する時間になったから

「ちゃんと寝ときなよ」

と声をかけて僕は仕事に向かった。

その日は夜遅くまで仕事があったから、クタクタになりながら帰宅した。さすがに美味しくなっているだろうと、早速カレーを温めて食べてみたら、昨日と全く同じ味で落胆した。

「ひょっとして寝てないの?」

「すんまへん」

「昼寝は?」

「してまへん」

どうやらあまり寝なくても平気な体質なのか、僕の作ったカレーは全然寝てくれない。おかしいなぁと思って実家の母ちゃんに「カレーってどうしたら寝てくれるの?」と電話したら、「添い寝をしてあげなさい」と言われた。そうか、初めて作ったカレーだもの。まだ一人で寝ることはできないのだと気がついた僕は、さっそくカレーを布団に連れてきて、一緒に眠ることにした。

「おやすみ」と言って電気を消した。静かにしていたカレーが、しばらくして急に喋りかけてきた。

「なぁなぁ、好きな人とかいるん?」

「シッ! もう寝なよ」

「……誰が好きなん?」

「寝なって!」

「……俺の知ってる人?」

「うるさい!」

「なぁなぁ」

「もう寝ろって!」

注意しているうちに気がついたら朝になっていて、やっぱり寝ていないのだから当然、カレーは作った時とまったく同じ味だった。

それでも十分美味しいのだけど、どうしても一晩寝かしたカレーを食べたかった僕は、なぜ自分のカレーが寝てくれないのか、また眠たくならないのか真剣に考えた。料理の得意な先輩に相談したり、ネットで調べて行くうちに、うちのカレーが寝てくれない理由をつきとめた。隠し味に入れたインスタントコーヒーの量が多すぎたのだ。カフェインを過剰摂取したカレーは不眠症になってしまうことがしばしばあるらしい。

そうか、コクを出そうと欲張って多めにコーヒーを入れたのがダメだったんだと、すぐにカレーを病院へ連れていった。心無しかカレーの顔はやつれているようだった。眠たくならないとはいえ、寝ないと体は当然悲鳴を上げる。

診察を終えた先生は、

「安心してください。これくらいであればすぐに眠るようになれるでしょう」

とおっしゃってくださった。相変わらず横で余計なことをペラペラ喋っているカレーの隣で僕はホッと胸を撫で下ろした。家に帰ってすぐに、病院で処方して頂いた睡眠導入剤をカレーに飲ませたら、あっという間にうつらうつらし始めて、数分後にはスヤスヤと眠ってくれた。カレーも寝られなくてツラかったのだろう。

「コーヒー入れ過ぎて、ごめんな」

そう呟きながら毛布をかけてあげて、その日は僕もすぐに寝た。

翌朝、目が覚めるとカレーはすでに起きていた。

「おはようございます!」

ぐっすり寝られたようで、スッキリした顔色をしているカレー。さっそく温めて、一口食べてみたら、これがとても美味しくなっていて感動した。一晩寝かせたカレーってこんなに美味しくなるんだ!

「めちゃくちゃ美味しいよ!」

「そうですか?良かったですわ」

「じゃあ仕事に行ってくるから」

「いってらっしゃい」

睡眠導入剤入りのカレーを食べたからだろう。起きたばかりなのに、もう眠たくなってきた。

「今度カレーを作る時はインスタントコーヒーの量に気をつけよう」

落ちてくるまぶたに必死で抗いながら、僕はそう思った。

(次回5月25日は立川談笑師匠の登場予定です)

立川吉笑(たてかわ・きっしょう) 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。出囃子は東京節(パイのパイのパイ)。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、『デザインあ』(NHKEテレ)のコーナー「たぬき師匠」でレギュラーを務めたり、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載したり、多彩な才能を発揮する。ホームページは、http://tatekawakisshou.com/

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