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心臓の穴塞ぎ片頭痛を緩和 セロトニン「足止め」 投薬との二本柱めざす

2016/1/14 日本経済新聞 朝刊

ズキンズキンと脈打つような痛みなどが起こる片頭痛は、仕事や家事に手がつかなくなるほどの痛みを伴う慢性の頭痛だ。国内患者は女性を中心に15歳以上で推定約840万人に上る。薬物療法が一般的だが、心臓に開いた小さな穴を塞いで症状を改善する取り組みを岡山大学が始めた。心臓の穴を塞いで片頭痛を治すとは奇妙に聞こえるかもしれないが、実際に効果も出ている。新治療法として普及を目指す考えだ。

頭痛には一次性と二次性がある。一次性は検査をしても原因となる異常が見つからない慢性タイプだ。二次性はくも膜下出血や脳腫瘍などの重い病気が原因となり、治療が遅れると生命に関わったり後遺症が出たりする。慢性タイプが全体の約9割を占めており、片頭痛はそのうちの一つだ。生命に直接関わらないが、苦しむ「頭痛持ち」は多い。

片頭痛は脈拍に合わせるかのように激しい痛みが、頭の片側を襲う。痛みが4時間~3日間続く。吐き気をもよおす例が多く、体を動かすと痛みが強くなるため、寝込んでしまうことも多い。痛みが頭の両側で起こる場合もある。また、頭痛が始まる30~60分前に視界が明滅したり、片方の手が一時的にマヒするなどの前兆を伴う例もある。

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患者は20~40代女性が目立つという。発症の詳しい仕組みはよく分かっていないが、脳の血管を収縮させる作用などがある神経伝達物質セロトニンが関係しているようだ。セロトニン量が急に変化すると、いったん収縮した血管が拡張し、神経を刺激して痛みが出るという考え方だ。

岡山大学が2015年6月から始めた片頭痛の新治療法は、心臓の左右の心房を仕切る壁にある「卵円孔(らんえんこう)」と呼ばれる小さな穴を塞ぐ。もともとは脳梗塞の再発を防ぐための方法だった。静脈にできた血の塊(血栓)がここを通って脳に送られ、脳梗塞を起こしかねないからだ。卵円孔は成人の15~25%が持っており、脳梗塞患者で穴が見つかった場合、手術することがある。

ところが、手術を受けた脳梗塞患者から「片頭痛の症状がよくなったとの声が相次いだ」と同大病院循環器疾患集中治療部の赤木禎治准教授は話す。治療した38人のうち19人が片頭痛を経験していたが、治療後に13人の痛みが消え、5人が顕著に改善した。1人は変化がなかった。

これは「静脈血に多いセロトニンが卵円孔を通過し脳に達して頭痛を起こしていたが、穴を塞いでそれを妨げた結果と考えられる」(赤木准教授)。欧米でも同様の報告があり、臨床試験も進んでいるという。

同大では現在までに片頭痛の患者4人が新治療法を受けた。その一人が50代女性のA子さんだ。子供のころから頭痛に悩まされ、さまざまな鎮痛剤を服用してきた。しかし痛みが治まらず、仕事もできずに自宅で寝込むことも多かった。

A子さんは超音波(エコー)検査などで卵円孔があると確認。15年12月に、カテーテル(細い管)を足の付け根の血管から入れた。円盤状の栓を心臓まで運び、穴を塞いだ。手術は約1時間で済んだ。A子さんは以前より痛みが軽くなった実感があるという。今後も定期的に同大を訪れ、経過を観察する予定だ。

片頭痛の症状を和らげるため実施したカテーテルを使った手術(2015年12月、岡山市の岡山大学病院)

同大を受診した片頭痛患者のうち穴があったのは約4割で、新治療法がすべての患者をカバーできるわけではない。赤木准教授は「穴を塞げば片頭痛が完全に治るとは言い切れないが、かなりの効果が期待できるかもしれない」と話しており、今後も症例を重ねる。

この治療法は片頭痛向けには健康保険が適用されない。入院を含む費用約130万円は自己負担だ。普及につなげるため「2~3年後には、国の先進医療制度の適用を目指す」(赤木准教授)考えだ。

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一方、従来の薬物療法で効果が期待できる人も多い。軽い症状なら市販薬でも効く。吐き気などを伴う場合は、トリプタン系と呼ぶ薬を使って、脳の血管を収縮させたり神経の炎症を抑えたりして痛みを和らげるのが一般的だ。

この薬で大事なのが、使うタイミングだ。服用するのは痛みが出る前でも、痛みが我慢できなくなってからでもよくない。「つらくなる前の片頭痛だと確信したときに服用すると、十分な効果が得られる」と近畿大学医学部の西郷和真医師は説明する。

トリプタン系薬剤は現在5種類が使える。患者は複数の薬を試し、最も効果がある1種類を選んで使うことが多いという。錠剤のほか、水なしで飲める薬、点鼻薬、注射薬とさまざまなタイプがある。ただし、1カ月に10回を超えてトリプタン系薬剤を使うと、薬の使い過ぎによる頭痛を招く恐れがあるので要注意だ。

頻繁に使わないと痛みが抑えられない人は、予防薬を使うことで頭痛の回数などを減らすようにする。てんかんの薬や抗うつ剤、血圧を下げる薬などが使われる。これらの薬は脳の神経に作用し、痛みが出るのを防ぐ効果が期待できる。

片頭痛は生活の質(QOL)を下げる病気だ。単なる頭痛だからと軽視したり1人で悩んだりしないで、早めに医師に相談し、自分に合った治療法を選ぶことが重要だ。

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■人混み避けて安静に 疲労・天候・飲酒…多様な原因

片頭痛を引き起こす原因はいくつかあると考えられている。まずは精神的な要因で、ストレスや疲労、睡眠不足などだ。また、気温や気圧など天候の変化で起こる例もある。特に飛行機に乗るときや悪天候で気圧が下がるときは要注意という。

女性では月経周期も誘因になる。ホルモンの変化が影響するという。人によっては食事も関係しているようだ。近畿大学の西郷和真医師は「飲酒も気をつけたほうがよい場合がある」と話す。患者はこうした要因をできるだけ避けて生活し、片頭痛とうまく付き合う工夫も求められる。

周囲の理解も重要だ。仕事や勉強の重圧で片頭痛を発症したケースでは、上司や同僚、友人らの理解をなかなか得られず、仮病だとみなされることもある。西郷医師は「症状がひどいときは寝込むくらい痛いと理解してほしい」と指摘する。痛みが強いときは人混みを避け、暗く静かな場所で寝ているとよいという。

片頭痛以外では目の奥が痛む群発頭痛や頭全体が締め付けられるように痛む緊張型頭痛もある。片頭痛と緊張型頭痛を併発する人もいる。タイプにより対処法も異なるため、医療機関を受診し適切に治療したい。

(草塩拓郎)

[日本経済新聞朝刊2016年1月10日付]

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