政府・経済界の多様性戦略は? 橋本聖子大臣らに聞く
政府と経団連はそれぞれ中長期の戦略を策定し、2021年以降、女性活躍などのダイバーシティ政策に力を入れる。国際社会で日本は大きく遅れており、経済社会を発展させる上でスピードアップが必要だ。橋本聖子男女共同参画担当相と経団連でダイバーシティ推進委員会の委員長を務める三井住友海上火災保険の柄沢康喜会長に具体的な取り組みを聞いた。
「若い世代の声を意識」男女共同参画担当相 橋本聖子氏
――第4次男女共同参画基本計画は、91の目標のうち約7割が未達。5次計画ではどんな点を意識しましたか。
「5年で一定の進捗は見られたが、諸外国の方がスピード感がある。だから危機感をもって計画の策定にあたった。特に意識したのは若い世代の意見。若者の声が政策に反映され、それを実感することで政治への参画も進む」
「今回初めて、20年度までの5年間の達成度を本格的に評価し、未達の理由などを分析した。国家公務員採用や国の審議会委員の女性比率は目標を達成でき、企業役員や議員の候補者は女性の登用が遅れている。ただ指導的地位に就く女性が増える土壌は着実に形成されている。達成できなかった項目は早い段階で達成できるよう努力する」
――5次計画ではこれまで以上に踏み込んだ取り組みが必要になります。
「今回寄せられたパブリックコメントは5年前の2倍。選択的夫婦別姓についても今までになく多くの議員が関心を持って議論し、メディアにも取り上げられた。発信していくことが大事だ」
「女性の政治参加を進めたい。育児や介護を議員の欠席事由として明文化することを地方議会に働きかける。私が出産したときは退院後すぐに復帰し、事務所で搾乳しながら会議に出席した。明文化することで肩身の狭い思いをせずにすむ。そんな当たり前の環境整備が必要だ」
――経団連も「。新成長戦略」で30年までに役員の女性比率3割という踏み込んだ目標を設定しました。
「5次計画と連携が取れるよう、数値目標もしっかり入れていただいた。内閣府が後押しする『輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会』は発足時は10人足らずだったが、200人を超えた。各社が好事例を発表することで取り組みが広がっている。今後は教育や農業、スポーツの分野でも連携を進めて、女性が活躍できる環境を整える」
「新型コロナの影響でテレワークが進み、地域で仕事する人も増えるだろう。魅力的な地域をつくるために女性の農林水産業への活躍を後押しし、学び直しの機会を増やしてデジタル人材を育成する。子供を産み育てながら働きやすい時代を迎えられるよう、政府がサポートする」
――基本計画から「選択的夫婦別氏」の記述が削除されました。
「以前から慎重派と推進派がいたが、大半は『どちらでもない派』。今回はその人たちが同姓か別姓かを選べること、困っている人が現実にいることを知った。考えを変えた人も多い。政府が次にどう動くのか、しっかり見てほしい」
(聞き手は女性面編集長 中村奈都子)
「数値目標設定でスピードアップを」三井住友海上火災保険会長 柄沢康喜氏
――「2020年に女性管理職30%」の政府目標は未達に終わりました。要因をどう見ますか。
「どうしてやらなければいけないのか、企業は本当に腹落ちしていたのか。ダイバーシティはこれからのイノベーションに不可欠なのだという意識が足りなかったかもしれない。女性が結婚や出産、育児などで仕事を辞めざるを得ない環境が依然としてあることや、家事や育児は女性が負担すべきだというアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の問題も大きい」
「確かに未達には終わったが、政府が目標を掲げたことは評価している。政府がかけ声をかけて民間を鼓舞して、次のステップへの土台はできた。この姿勢を緩めないことが大事だ」
――経団連は20年11月に発表した「。新成長戦略」で「30年に女性役員30%」との数値目標を初めて掲げました。
「これまでも企業はかなり努力してきたが達成に至らなかったため、さらなるスピード感が必要だという判断で策定した。海外の事例を見ると、英国のFTSE100種対象企業は目標の策定から10年足らずで『女性役員30%』を達成した。数値目標があった方が企業側も体制をつくりやすくなる」
「社外取締役の制度もあるので、役員の数値目標はある程度達成しやすい。取締役会で多様性を発揮できれば、会社全体がかなり変わる。そのためにも数値目標の設定は大事だと考えている」
――反対意見はなかったのですか。
「数値目標を定めることへの議論はもちろんあった。特に中小企業は『そもそも人材がいない』などの現実的な問題がある。ただ目標の数値に異論はあったとしても、女性の役員比率を高めることそのものへの反対はない。MS&ADインシュアランスグループホールディングスの取締役会の女性比率は25%だ。30%は荒唐無稽な目標ではない」
――どう推進しますか。
「具体的な政策はこれから検討するが、30年に向けたロードマップは必要だと考えている。達成できた企業の取り組みを共有する仕組みも効果的だ。経団連の会員企業に対して人材育成の観点も含めたサポートプログラムを提供し、底上げを図る方向で検討している」
――20年は新型コロナウイルス禍で社会のあり方が大きく変わりました。21年はどのような1年としたいですか。
「女性や外国人、ハンディのある人が雇用を打ち切られるなどのしわ寄せを受けた。就業率の回復は重要な課題だ。一方、コロナ禍で進んだリモートワークなどの柔軟な働き方はさらに定着、強化していきたい」
(聞き手は学頭貴子)
[日本経済新聞朝刊2021年1月4日付]
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