選択的夫婦別姓のハードルは? 議論進まず四半世紀

2020/12/28
市民グループ「#男女共同参画ってなんですか」は国会内で集会を開いた
市民グループ「#男女共同参画ってなんですか」は国会内で集会を開いた

2021年度から始まる第5次男女共同参画基本計画の案から「選択的夫婦別氏」という文言が消えた。法制審議会が選択的夫婦別姓を盛り込んだ民法改正案を答申して四半世紀近くたつ。夫婦が同姓か別姓かを選べる制度を求める声は高まっていたのに、何がハードルとなったのか。

「5次計画を話し合う調査会に若者はいません」。市民グループ「#男女共同参画ってなんですか」は12月3日、国会内で集会を開き、代表の桜井彩乃さんらが選択的夫婦別姓の導入などを訴えた。同グループは学生団体やNPOなど32の組織・個人が賛同して夏に発足。2日には橋本聖子男女共同参画担当相に選択的夫婦別姓の導入を求める3万人超の署名を手渡した。

同グループが集会を開いたのは5次計画で、選択的夫婦別姓の実現に前向きな表現を盛り込むことに対し、自民党の一部で反発があったためだ。参加した与野党の国会議員からは「若い人の意見を反映できる政治にしていきたい」などの意見が相次いだが、形勢を逆転するのは容易ではなかった。

男女共同参画基本計画はあらゆる分野で男女平等を進めるための基本方針を定める。政府は15日、選択的夫婦別姓について「夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し、司法の判断も踏まえ、さらなる検討を進める」という最終案を提示した。これを自民、公明両党が了承し、25日に計画は閣議決定された。

現在の4次計画の「選択的夫婦別氏制度の導入などに関し、司法の判断も踏まえ、検討を進める」と比べて「選択的夫婦別氏制度」が削除され、表現は後退している。

当初、政府は「国会での議論の動向を踏まえ政府も必要な対応を進める」と踏み込む方針だった。原案は結婚前の姓を使えない仕事や生活上のデメリットも例示した。4日、計画に関係する自民党の部会終了後、反対派のある議員は「別姓でないと困るという意見はエビデンスがしっかりしていない」「導入ありきの議論は成り立つはずがなく、お粗末だ」と語気を強めた。

自民党は部会を4回開き、2時間以上紛糾した日もあった。政府が「必要な対応を進める」から「検討を進める」と修正してもなお、了承されなかった。「別姓では家族の一体感が失われる」との主張は根強く、選択的夫婦別氏の文言がなくなった案が出た15日の4回目の部会でようやく了承された。

政府は自民党保守層の意向を無視できない事情がある。安倍政権では保守派やその関係勢力が政権基盤の支えになっていた。菅義偉首相はかつて導入に賛成する考えを示していた。11月には国会で「政治家として申し上げてきたことには責任がある」と述べたが、安倍路線を継承するとした菅氏も彼らの意向に一定の配慮をせざるをえない。

一方で、導入を求める機運は高まっている。5次計画のパブリックコメントには選択的夫婦別姓を望む声が400件以上集まり、反対派の意見はゼロだった。内閣府が17年に実施した世論調査で賛成派は42.5%と反対派を13.2ポイント上回り、30代は賛成が52.5%を占める。「家族の姓が違っても一体感に影響がないと思う」とする人も64.3%にのぼった。

現状では96%の女性が夫の姓を選ぶ。日本経済新聞社が19年、働く女性2000人に聞いた調査では、選択的夫婦別姓の導入に74.1%が賛成だ。1986年の男女雇用機会均等法施行から30年以上たち、働く女性が増えた。結婚後に姓が変わることで業績が分断されるなどの不利益はかねて指摘されてきた。一人っ子の実家の姓を残したいとの希望も強い。

海外では選択制や別氏制が一般的だ。国連は夫婦別姓を認めない日本の民法規定が差別的だとして是正勧告を3回出している。

自民党内でも賛成派は増え、河野太郎規制改革相や小泉進次郎環境相は肯定的だ。同じ与党の公明党は賛成の立場で党内には「自民は早く世論を直視してほしい」との声もある。

自民党の二階俊博幹事長は12月8日の記者会見で「ある程度時間をかけて慎重に決めたらよい」と述べた。だが、1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓制度を盛り込んだ民法改正案を答申して25年近くたった。当時困っていた人たちの子世代が悩み始めており、先送りできない。今後議論を俎上(そじょう)に載せる機会はあるのだろうか。

いくつか芽はある。12月22日には政府の規制改革推進会議(議長・小林喜光三菱ケミカルホールディングス会長)の会合で、出席者から選択的夫婦別姓の是非を同会議で議論するよう求める声があった。5カ年にわたる男女共同参画基本計画は中間時点の23年度に進捗が遅れている部分を点検できる。市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」は地方議会を通じ、国会に法制化を陳情する活動を進めている。

最高裁は12月9日、事実婚の夫婦3組が別姓の婚姻届の受理を自治体側に求めた家事審判を大法廷で審理すると決めた。大法廷は15年、夫婦同姓を定めた民法の規定を合憲としたが、再び憲法判断が示される見通しだ。公明党の古屋範子副代表は「結論が司法の場から出てから動き出すのでは遅い。議論を加速させたい」と語る。

旧姓の通称使用は混乱招く
選択的夫婦別姓の導入に前向きな意見が多数となるなか、次期男女共同参画基本計画に「必要な対応を進める」という原案の記述が盛り込めなかったのは残念だ。制度に反対する自民党保守系議員は「日本の伝統が壊れる」というが、同姓制度は1898年の民法制定以来、100年余りの歴史しかない。

選択的夫婦別姓はすべての人に別姓を強いるのではなく、希望する人が選べるようにするものだ。旧姓の通称使用の拡大では限界がある。通称使用には法的根拠がなく、海外出張するときに使えない場面があるなど混乱を招く。内閣府の調査によると、旧姓使用を認める企業は半数以下にとどまる。時代の流れに沿った議論が進むことを期待している。
(佐堀万梨映)

[日本経済新聞朝刊2020年12月28日付]