肉引き立つスパイス探してみた 3種以上混ぜ好みの味
スパイスを使ったエスニック料理の人気が広がり、自ら調合する人も増えている。コロナ禍、せめてクリスマスは豪華に……。記者(29)が肉のうまみを引き出すスパイスを探した。
まずはスパイスの基礎知識をスパイスコーディネーター協会理事の園田ヒロ子さんに教わった。カレーに使われるため「スパイス=辛いもの」というイメージを持っていたが、園田さんによると「辛いのはごく一部」。味や香り、色などは多種多様だ。スパイスは料理の味や風味などを調整する食用植物の総称で、野菜売り場で見かけるニンニクもスパイスだ。
一般的に肉の臭い消しにはブラックペッパーやヒガンバナ科のニンニクなどが効果的という。スパイスは臭い消しの他にトウガラシなど辛みを加えるもの、シナモンなど香りを加えるもの、サフランなど色もつけるものがある。
調合の基本ルールの一つが3種類以上使うこと。単品だと香りや味のくせを強く感じるのに対して、3種類以上混ぜることで互いのくせを打ち消す。(1)シソ科のマジョラムとオレガノなど同じ科のスパイスで選ぶか(2)甘みを感じられるナツメグやクローブなど似た香り――で選ぶとよい。
「料理の幅が広がるだけでなく、味や風味を調整して減塩・減糖など健康な食生活につなげることもできます」(園田さん)。スパイスの奥深さにはまり、コーディネーターの資格を持つ人は全国に1000人以上いるという。
実践に移る。ポークソテーをメインディッシュに選び、豚肉を焼いたときの独特の甘い香りをスパイスで引き立てたいと考えた。専門店の香辛堂(東京・目黒)を訪ねた。ブレンドしたスパイスを販売しているが、週末を除けば自分の好みに応じた調合をしてもらえる。
もっとも、店主の勝又聖雄さんは調合について細かい助言をしない。「配合の『正解』は選ぶ人の好みによって異なります。吟味して好みのスパイスを選ぶお手伝いをしています」(勝又さん)
複数のスパイスの香りを嗅ぎ、かんきつ類を想像させるフレッシュな香りが特徴のコリアンダーが気になった。刺激を与えるブラックペッパー、独特な甘い後味のオールスパイスと選ぶ。赤みがかったパプリカを加えると食欲もそそられると踏み、計4種で調合してもらった。
帰宅して調理を開始。肉に切り込みを入れ、大さじ1杯のスパイスをすり込み15分ほど寝かす。焼いて食べると調合したスパイスの華やかな香りが豚肉の甘い香りを引き立てる。スパイスがアクセントとなり、豚肉のうまみも強く感じられた。もう少しブラックペッパーのピリッとした辛みもあってよいのではないかと感じたが、香辛堂の勝又さんによると「調合のトライ&エラーを繰り返して好みの味に近づくのも楽しみの一つ」。また挑戦してみたい。
近くに専門店がなくても、手ごろな価格で市販されているスパイスで、肉のうまみを引き立てる調味料を作ることもできる。ドリンク&フードクリエイターでインスタグラムやブログ「世界の酒場レシピ」で情報発信する青山金魚さんは、手軽な「ワインソルト」を薦める。
小鍋に塩100グラムと赤ワイン200ミリリットル、お好みでゆずの皮を加え、中火で加熱。沸騰したら弱火にして木べらでかき交ぜ、水分がなくなったら熱いうちにスパイスのローズマリーを投入、冷ませばできあがり。「ステーキはもちろん、天ぷらやゆで卵のアクセントに添えると、彩りが華やかになります。使用したワインの香りもほのかに楽しめます」(青山さん)
様々なことを我慢してきた今年。締めくくりぐらいは華やかな思い出を残したい。手軽に楽しめるスパイスの料理を試してみてはいかが?
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羊や馬 特産品向けも
北海道の羊肉など特産品として食される肉の味を引き立てるスパイスの開発も進む。東洋肉店(北海道名寄市)と羊肉料理を提供する中華料理の味坊(東京・千代田)がタッグを組んだのが「羊肉の香辛料」。クミンなど5種類のスパイスを調合し、日本人好みの味に仕上げた。味坊オーナーの梁宝璋(りょうほうしょう)さんは「臭みを取るだけでなく、ラム肉特有の香りを楽しめる」と話す。
長崎県雲仙市のすぱいす工房BONGA(ボンガ)は2016年の熊本地震を受け、馬のスジ肉の甘さを引き立てる「赤兎馬(せきとば)カレー」をネット通販などで扱う。スパイスは地域振興を後押ししそうだ。
(荒牧寛人)
[NIKKEIプラス1 2020年12月5日付]
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