入試本番シーズンに高校3年生が受験参考書ではない本を必死で読み進める。名古屋市のある女子生徒が手にするのはマーケティングや経済学のテキスト。「大学から入学前の課題として読むように言われているんです。あとは簿記と英語の勉強。4月からどんな授業をとるかということもじっくり考えています」。彼女は2019年12月に立教大学経営学部のAO(アドミッションオフィス)入試の合格通知を受け取っているのだ。
一般入試より早いAO・推薦入試で合格を勝ち取る生徒が増えている。「一芸に秀でたごく一部の学生向け」というイメージは過去のもの。文部科学省によると2018年度の国公私立大入学者に占めるAO・推薦組の割合は45%、私立大に限れば52%にのぼる。難関校も募集枠の拡大に力を入れ、慶応義塾大学は湘南藤沢キャンパス(SFC)にある総合政策学部・環境情報学部でAO・推薦の定員を21年度の新入生から1.5倍の300人に増員。早稲田大学も政治経済や社会科学など多くの学部でAO・推薦型の入試枠を増やし、一般入試による入学者数を逆転する長期目標を掲げる。国立大学協会もAO・推薦の定員を21年度までに3割に引き上げることをめざしている。
AO・推薦入試拡大の背景には、受験生、大学それぞれの事情がある。都市部に学生が集中するのを抑えたい国の政策によって大学側が定員管理を厳格化したことで、一般入試が以前より「狭き門」になっている。特に今春の進学をめざす現役生にとっては、21年1月に始まる大学入学共通テストが出題方法などを巡りゴタゴタしていることが、AO・推薦志向を強める理由になっているとみられる。
大学は「リスク回避」と「出会い」に期待
大学側が期待するのは「入学定員の確保」と「伸びしろのある学生との出会い」。少子化などで定員割れを懸念する大学には、早い段階で一定の入学者数を確定できるのは利点だ。明確な目的意識をもった多様な学生を受け入れることは、どの大学にとっても学内を活性化するメリットがある。
教育ジャーナリストの後藤健夫さんは「AO・推薦入試ではディスカッション能力のある学生を見つけられるという認識が大学側に定着してきた。一般入試の枠が減って倍率が上がることもブランド維持に役立つと考える大学が少なくない」と指摘する。21年度入学者選抜から推薦は「学校推薦型選抜」に、AOは「総合型選抜」に名称が変わるが、後藤さんは「長期的には入学定員の7~8割をこれらの入試で集める大学が増えていく」と予測する。