精肉店ならではの味わい フランスのタルタルステーキ

2020/2/20
人気精肉店ブシュリ・レストラン・デュゴ・デノワイエのタルタルステーキはキャビアと組み合わせる
人気精肉店ブシュリ・レストラン・デュゴ・デノワイエのタルタルステーキはキャビアと組み合わせる

生肉を皿に円柱状に盛り付けるフランスの定番料理、タルタルステーキに面白い動きが出ている。従来はビストロなどで出される料理だったが、人気精肉店が店内にテーブルを置いて提供する例が出てきた。精肉店だけに肉の扱いがうまく、消費者にとっては高い品質の料理が食べられる魅力がある。これに刺激を受けた料理店も味に磨きをかけて競っている。

タルタルステーキは牛の赤身肉が多く、ミンチや包丁で切って細かくしたものに、塩やオリーブオイル、薬味で味を調えて提供する。韓国料理のユッケとよく似ている。

「いい肉を使って、レシピはシンプルに。それが一番味を楽しめる」。パリ西部16区で人気精肉店を営むユゴ・デノワイエさんは語る。店名は「ブシュリ・レストラン・デュゴ・デノワイエ」で、内装は完全に精肉店。店の端に十数人が食事できるスペースがある。

精肉業に約30年携わり、地方で自身の肉牛を所有している。エサや飼育環境にこだわり抜き、顧客には著名人も多く名を連ねる。子牛肉の上にキャビアをのせた一品は、驚くほど新鮮な食感だ。キャビアの塩分が肉の柔らかさと絡み合い、しつこさを全く感じない。

食感にこだわるイブマリ・ルブルドネック・ラファイエットグルメでは、肉を包丁で切る

パリ中心部の百貨店ギャラリー・ラファイエットの地下1階にあるのが、人気精肉店「イブマリ・ルブルドネック・ラファイエットグルメ」だ。イブマリ・ルブルドネックさんは精肉店を5店持つが、2017年に開いたこの店だけが食事スペースを備える。

タルタルステーキに使う肉は10~15日程度熟成させ、より良い食感を出すために包丁で切る。飼育計画を立ててから店舗に並ぶまで約10年かかる場合もあり、「流行に左右されない高い品質を保つのが何より大事だ」と強調する。ウイスキーで味付けしたシンプルな調理法が一番人気だ。新鮮な肉の味わいに、ほのかにウイスキーの香りが混ざる。

ル・セヴェロでは客が好みの調理法を伝えることができる

レストランも負けていない。パリ南部の「ル・セヴェロ」ではケッパー、卵黄、エシャロット、ケチャップなどが入る。絶妙なバランスの甘さと酸味の後で、かすかにペッパーソースの辛味が感じられる。付け合わせの熱々フライドポテトと交互に口に入れると、どんどん食が進む。

肉はフランス、ドイツ、米国などから60~70キログラム単位で仕入れる。オーナーのウイリアム・ベルネさんは「草原に出て、草をたくさん食べた牛の肉が香りもいい」とこだわりを語った。客の好みも聞いて肉や味付けを変える気配りもしてくれる。

<マメ知識>「タタール人」が由来か
タルタルステーキの名前の由来は、中世中央アジアの騎馬民族タタール人との説が有力だ。遠征中に連れて行った馬を食べていたが、柔らかくするために切った肉を馬鞍の下に敷いて移動していた。その肉を後から細かく切って、味付けしていたという。仏テレビ「Cニュース」によると、その後欧州に渡り、卵の黄身、タマネギなどを加える調理法が定着した。
さらに肉を火を入れて食べるレシピが欧州で生まれ、現在のハンバーグの起源となったとみられている。

(パリ支局長 白石透冴)

[日本経済新聞夕刊2020年2月20日付]