まるでITベンチャーの東大先端研 壁外して知恵集結東京大学 先端科学技術研究センター

開放的な雰囲気の研究室に若手研究者が集う(一部を画像処理)
開放的な雰囲気の研究室に若手研究者が集う(一部を画像処理)

文理融合に先駆けて挑んできた東京大学の先端科学技術研究センターが、2つの「キョウソウ」をテーマに新たな活動を始めた。異分野の若手研究者が生命科学分野で「協奏」するプロジェクトと、自治体や企業などと連携して地域社会を「共創」する取り組みだ。研究室の壁を取り払い新領域の開拓を目指している。

2017年度に発足した「生命・情報科学若手アライアンス」の一室は、一般にイメージする大学の理工系の研究室とは違い、IT系ベンチャー企業のようなおしゃれな雰囲気だ。ガラス張りのスペースの横に最先端の機器が並ぶ実験室が広がる。もともとは半導体の研究に使われていた部屋を大改装した。

合成生物学やデータサイエンス、計測科学など異分野の若手研究者がここに集まる。30歳代半ばから40歳代前半の4人の気鋭のリーダーが率いる研究室の計約30人が中心になっている。

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5年前に海外の大学から先端研に転じた谷内江望准教授がプロジェクトの発案者だ。海外では当たり前だった研究室間の風通しのよさが日本では不十分だと感じた。実験設備は共同で使い、頻繁に顔を合わせて研究について意見を交わす。それぞれが持つ知識や技術を突き合わせ「教科書に載るような成果を目指す」(谷内江准教授)。

谷内江准教授は生命現象を記録する手段としてDNAを活用する研究をしている。「生命科学は1人ではできない。違う能力を持つ人が協力し合えるようにしたかった」と話す。

多様な意見を尊重するのが先端研らしさだ。神崎亮平所長は「提案を聞いて、ぜひやるべきだと思った」と語る。新たに若手研究者を採用し、1000平方メートルを超す研究スペースも用意した。

先端研では所長がトップの経営戦略室で予算配分や組織の改廃などを迅速に決められる。大学内の他の組織よりも「機動性が高い」(神崎所長)。東大の知的財産権を実用化する技術移転機関(TLO)や期限付きの任期で研究者を採用する特任制度など、先端研発の取り組みは多い。「先端研は東大における特区」(五神真総長)との位置づけだ。

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先端研が蓄積してきた文理融合の成果を社会で生かす取り組みも加速させている。18年度に始めた「地域共創リビングラボ」は地域が抱える課題解決のために、先端研が自治体や地方大学、企業などと連携する仕組みだ。19年に入って先端研は北海道白老町、和歌山県、福井県永平寺町、山形県南陽市、神戸市と相次いで連携協定を結んだ。これまでに10以上の自治体と協力関係を築いた。

17年に連携協定を結んだ熊本県では、16年の熊本地震の経験を今後の災害対策に生かすデジタルアーカイブ作りで、熊本大学と協力した。高齢者と障害者の就労と社会参加を支援するシステムも開発した。

東日本大震災からの復興を進める福島県いわき市とも18年3月に連携協定を結んだ。いわき市は風力発電を軸にした産業振興を目指しており、先端研は人材育成などで協力する。

リビングラボを担当する牧原出教授らがコーディネーターとして、自治体と企業、先端研の研究室を結びつける。行政学が専門の牧原教授は「地域と地域をつなぎ、行政・まちづくりの総合的なクリニックを目指す」と話す。

87年に発足した先端研は「新領域の開拓」を標榜してきた。2つの「キョウソウ」の取り組みもその芽を育むと期待を寄せている。

(福岡幸太郎)

[日本経済新聞朝刊2019年8月28日付]

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