夏の京野菜といえば賀茂なす 古くて新しい季節の味
古くから都として栄えた京都には多種多様な野菜が全国から集まってきた。その中で風土に適したものを、栽培方法を工夫するなどして磨きをかけてきたのが京野菜だ。
素材の良さを最大限に生かす京料理にとって、旬の野菜は欠かせない要素のひとつ。丸々とした「賀茂なす」、辛みのない肉厚な「万願寺とうがらし」など個性派ぞろいだ。そんな京野菜に親しんでもらおうと、京のふるさと産品協会は「旬の京野菜提供店」を認定している。瓢亭(ひょうてい)、菊乃井などの有名店と並んで、比較的気軽に入れる料理店も紹介している。
上賀茂神社近くの萬川は京野菜づくしのコースが特徴。上賀茂は地元農家が野菜を直販する「振り売り」の文化が残る。自宅の京町家を改修して開業した萬川淳一さん(57)は「自分自身、野菜に育てられたようなもの」と話す。同じ田楽を作るのにも、複数の産地・農家の賀茂なすを用意し、客に選んでもらう。口に運ぶと、食感や風味の違いに驚かされる。「農家の苦労話なども紹介し、素材の違いを楽しんでもらう」
「他では食べられないメニューを」と話すのはジョイフル文蛾(ぶんが)2900の平田もと子さん(73)。学生食堂を営んでいたが、京野菜のアイデア料理コンテストで大賞を獲得したのが転機に。夜は完全予約制で、初代京野菜マイスターの平田さんが客ごとに献立を考える。賀茂なすをあえてスープにするなどオリジナリティーあふれる。
京野菜の舞台も広がる。イタリア食堂910の工藤豊さん(40)は「一生の経験になるような食を提供する」のが信条。定番のなす田楽も工藤さんの手にかかると、上にのった西京味噌にバジルがふんだんに使われ、オリジナルのイタリア料理になる。ラグーと呼ぶミートソースのパスタは、賀茂なすのしっかりした食感が鹿肉に負けることなく存在感を主張していた。
京都の野菜文化は訪日客にも好評だ。都野菜賀茂はあえて京野菜の指定品種にとらわれず、京都産のこだわり野菜を都野菜と呼び、バイキング形式で提供する。サラダバーに並ぶ新鮮な野菜には産地や農家を表示し、朝から中国人観光客らの行列ができる。
季節の移り変わりを楽しむ古都の文化。旬の京野菜がその彩りを豊かにしている。
「京野菜」という言葉は広く使われているが、実は明確な定義はない。狭義には京都府が1987年度に定めた「京の伝統野菜」がある。みず菜や九条ねぎ、賀茂なす、聖護院だいこんなどはこれに該当する。
一般の消費者に身近なのは89年度から始まった認証制度「京のブランド産品」で認められた20品目の京野菜。高品質を維持するため、各農家が栽培状況を記帳し、それを認証検査員がチェックできるようにするなどブランド維持に努めている。パッケージにはられた金色のシールがその証しだ。
(京都支局長 松田拓也)
[日本経済新聞夕刊2019年6月6日付]
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