医師が患者の痛みの強さを知るために用いる手法として、「ニューメリカルレーティングスケール」というものがある。痛みが最も強い時を10として、現在はどの程度なのかを聞くものだ。患者は痛みが弱ければ1や2などと答え、強ければ9、10と答える。
数値を大きく言う人や、逆に控えめに言う人もいるが、患者は気にしなくていい。医師は痛みに関する他の情報も加味して、強さを補足するので、実態と大きくずれることは少ない。治療を進めていくなかでは、初診時の程度からどのくらい変化したかで、治療効果を確認する。
痛みの性質を把握するのも重要だ。鈍い、鋭い、重いなど実際の痛みに近い表現を使う。ピリピリ、ヒリヒリ、ジンジン、ズキズキなどのオノマトペ(擬態語)も有効だ。表現の違いで「原因が筋肉なのか神経なのかなどがわかる」(加藤実・日本大学医学部付属板橋病院痛みセンター長)という。
痛みに関する治療が専門のペインクリニックでは、医師が状態を細かく聞き出していくなかで、患者も自分のことを客観的につかみやすい。しかし、痛みが専門の医師がいない一般の医院などでは、自身の痛みを客観的に説明するのが難しいこともある。
日大板橋病院の加藤センター長は「病院に行く前に、痛みの情報をメモし、医師に伝える準備をしておくとよい」と勧める。痛みについて(1)時期(2)場所(3)強さ(4)性質(5)日常生活への影響――などを控えておき、診察時に伝える。
医師は、痛みの情報を基にどうして痛くなるかという仕組みを説明。治療法の種類や内容を話し、どの順番で治療するかなど、ひとつずつ患者と相談しながら決めていくことになる。河田院長は「痛み治療は患者と医師の共同作業。両者の間でよいコミュニケーションがとれることが、痛みを和らげる近道だ」と話す。
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オノマトペが有効
ファイザーがインターネットを通じて調査したところ、患者に問診する際に、「痛みを上手に伝える・聞き出すための工夫」として、約9割の医師がオノマトペを使用しているという。患者の方も約7割が使っていた。
医師が問診でオノマトペを使う理由(複数回答)は「患者から痛みの情報を聞き出しやすくなるから」(93%)、「患者の痛みの表現から痛みの種類が推測できるから」(91%)。患者も「自身の痛みを説明しやすいため」(94%)、「痛みを感覚的・直感的に表現できるため」(93%)などだった。
問診で医師に痛みを上手に伝えられているかは「オノマトペを使用している患者」(61%)が、「使用していない患者」(54%)を上回った。
日大板橋病院の加藤医師は「オノマトペは、医師と患者が容易に使える痛みの共通言語として非常に重要な役割を担っている」と話す。
(大橋正也)
[日本経済新聞夕刊2017年4月13日付]