首こりの原因、背骨のしくみから解き明かす
二足歩行になったことで背骨と骨盤の働きが変わった
生き物の進化とともに、背骨の姿は大きく変化してきた。
魚の背骨は、全体にほぼ同じ形の骨(椎骨)が連なっている。焼き魚を食べたあとのあの姿は、全身を波打たせて泳ぐのに適した骨格だった。
その後、陸上生活に移った動物の背骨は、地上での暮らしに適応する中で、肋骨のない領域が生じた。首の部分が「頸椎(けいつい)」、腰の部分が「腰椎(ようつい)」だ。肋骨が消えた場所は、よく曲がる。地上に出た生き物は、首を大きく動かして視野を広げ、腰を前後に曲げ伸ばししながら地面を疾走するようになった。
だが人類では、この骨格が思わぬデメリットをもたらすことになる。「直立姿勢になったため、背骨への負担が増大。特に、脆弱な首と腰に負担が集中しました」(順天堂大学教授の坂井建雄さん)。人間が首こりや腰痛に悩む原点は、「よく動く首と腰」にあるのだ。
直立姿勢の影響はさらに、骨盤にも及んだ。四足姿勢では、背骨は「梁」のように胴体を横に貫き、そこから内臓がぶら下がっていた。だが直立することで背骨は縦に走る「柱」へ変化。そこで内臓の重さを支えるため、平板だった骨盤がボウル状の形に進化したのである。
首の後ろの筋力が弱体化、凝視すると筋肉が緊張して固まる
チンパンジーやゴリラなど、人間と近縁の動物たちと比較すると、人間の背骨の特徴がよりはっきりする。これらの類人猿は、二本足で立つこともできるが、基本姿勢は四足だ。そのため背骨は前傾していて、その先端に頭がついている。
「頭の重さを支えるために、首の後ろの筋肉が非常に発達しています」(坂井さん)
一方、人間は直立姿勢が基本。頭の重さを背骨が真下から支える構造のため、首の筋肉は類人猿よりはるかに弱いという。
パソコンやスマホを使うときのうつむき姿勢は、この弱い首に負担が集中する。本来、人間の骨格が想定していない姿勢なのだ。だから、長時間続けると首が凝ってしまうわけだ。
さらに、パソコンなどの画面を集中して見つめることも、首の凝りにつながると坂井さんはいう。「何かをじっと見つめるときは、視線を安定させるため、眼球や首の筋肉が動員されます。長時間にわたって凝視することも、首を緊張させる要因といえるでしょう」。
この人に聞きました
順天堂大学医学部解剖学・生体構造科学講座教授。1953年大阪府生まれ。78年東京大学医学部卒。90年より現職。専門は、人体解剖学と医学の歴史、とくに腎臓および循環器の微細構造。「椎間板ヘルニアは、頸椎と腰椎で起きます。よく動く部分なので、椎間板への負担も大きいのです」。
(ライター 北村昌陽)
[日経ヘルス2015年4月号の記事を基に再構成]
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