「宇宙と芸術展」 写真OK、SNSで拡散
人類は永い時をかけ、遠い宙(そら)に思いをはせてきた。探索や発見のニュースでより身近に宇宙が感じられる現代だが、我々の関心ははたして古代の人々より深まったといえるだろうか。
東京・六本木の森美術館で開催中の「宇宙と芸術展」(2017年1月9日まで)は、そんなことを考えたくなるテーマ展だ。古代から現代まで、人類が宇宙に注いできた熱いまなざしを形にした文物約200点。特別な知識なしに、宗教や科学の資料、美術作品など全部ひっくるめて「芸術」として鑑賞できるため、ジャンル横断の展覧会としては珍しく、週末には数千人規模の観客が訪れるヒットとなっている。
とりわけ全体をけん引しているのが若者層だ。アンケートでは20代が全体の4割を占め、10~40代の"美術展若年層"に広げればほぼ9割。「通常の美術展は50~60代が中心だから、明らかに年齢構成が違う」と広報の滝奈保美氏はいう。
東洋人の仏教的宇宙観を示す曼荼羅(まんだら)図に始まり、日本最古のSFともいうべき「竹取物語」絵巻、天才レオナルド・ダ・ヴィンチの天文学手稿、鉄の隕石(いんせき)で作った日本刀、江戸時代のUFO伝説「うつろ舟の蛮女」の絵図等々、貴重で興味深い展示は目の肥えた中高年も十分にうならせる。その中に内外の現代アートを随所にちりばめているのが同美術館の真骨頂。今や各地のイベントに引っ張りだこのチームラボの体験型映像インスタレーションは迫力満点だ。飽きの来ない刺激的な展示は若者を確かにひき付ける。だが、秘密はほかにある。
「写真撮影をできる限り可能にしたことです。ツイッターやフェイスブックなどネットにばんばん写真を上げてもらい、それが口コミで広がっている」と滝氏は打ち明ける。実際、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で知って来館した客が全体の4割も占めているそうだ。
同美術館は他に先駆けて「写真OK」の戦略を採っており、今回もインスタグラムと組んで月間優秀作に賞を出す試みをしている。「美術館がよさを宣伝するより、身近な人の発信のほうがはるかに意味を持つ」と滝氏。そんなネット宇宙の時代が美術館にも押し寄せている。
(律)
[日本経済新聞夕刊2016年10月26日付]
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