会社特命「おせっかい役」傾聴で転職組やシニアも支援多様なメンバーと働く 職場の対話術(2)

2021/6/28
経験を生かし若手を支えるのもシニアの大切な役割(写真はイメージ=PIXTA)
脱・同質性の時代。様々なバックグラウンドを持つ人と共に働くことが当たり前となった。女性、シニア、外国人、障がいのある人、性的少数者(LGBT)、子育てや介護を担う人………。多様なメンバーが持ち味を生かしながら気持ちよく働くには、それぞれが互いの持つ背景を知り、尊重し合うための「対話」が必要だ。コロナ禍で突然迎えたテレワーク環境下、先進企業では、どんなコミュニケーションの工夫があるのか。ジャーナリストの野村浩子氏が報告する。

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第2回は、サントリーホールディングス(HD)で「おせっかいおじさん・おばさん」として活躍するシニア社員に注目する。彼らのコミュニケ―ションの心得を紹介しよう。

役職定年したシニア、業務の4割は相談対応

サントリーHD傘下の企業には、会社から正式に「おせっかい」の役割を仰せつかったシニア社員らがいる。正式名称は「TOO」。「隣のおせっかいおじさん・おばさん」という言葉をローマ字表記した際の頭文字に由来する。

一言で言えば、管理職も含めた「職場のみんなの相談相手」。グループ全体で全国約20人がこの業務を担当。支店長や部長などを経験した元役職者のシニアらが中心で、業務の4割ほどを社員からの相談対応に充てている。TOOに手を挙げる人は多いが、「人望が厚い」など条件が厳しいだけに、この肩書を手にするのは狭き門だ。

コミュニケーションの達人ともいえるTOOに、多様なメンバーと互いに気持ちよく働くための対話の極意を聞いた。「黒子なんだけど」と苦笑しながら、手の内を少し明かしてくれたのは、自動販売機向け飲料事業会社であるサントリービバレッジソリューション(東京・港)の首都圏支社で働く樫谷昌邦さん(63)と、サントリーフーズ(東京・港)首都圏支社の田籠宗敏さん(63)。

2015年からTOOとして活動している樫谷昌邦さん(左)と、18年にTOOに就いた田籠宗敏さん※撮影のためにマスクを外していただきました(以下同)

ベテランTOOの二人によると、まず心得るべきは「聞き役」に徹することだという。

かつてはリーダーとしてチームを引っ張り、人望も厚い面々が相談に応じるとあって、TOOのもとには、おのずと様々な情報が入ってくる。ただし、当然ながらTOOはライン管理職を尊重する。「前面に立って課題を解決しようとしたら組織は崩壊する」(田籠さん)。求められれば助言はするが、あくまでも表立って課題解決に動いたりはしない。

およそ相談ごとは、誰かに話を聴いてもらうだけで、気持ちの7割がたが収まるという。「『言いたかっただけやねん』という人が意外に多い」と樫谷さん。

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自らの判断交えず、聞き役に徹する