慌てず騒がず、じっくり考える時期に
西の雄、灘高校(神戸市)も、インターネットを活用した授業の準備に取り組んでいる。「既にユーチューブを使い、3、4人の先生が英語などのコンテンツを生徒向けに提供している」と和田孫博校長は話す。ただ、リアルタイムの双方向オンライン授業をスタートするためには生徒側の自宅のネット環境が整っている必要があり、4月は準備段階だ。
和田校長も残念がるのは、5月上旬に予定していた灘名物の文化祭の中止。「生徒たちは楽しみにしていた。そこで一部の企画はオンラインで公開したいという生徒側の申し出を受けることにした」と話す。関西が誇る異才集団はネットを活用した新しい文化祭の形を作るかもしれない。
女子の進学校ナンバーワンの桜蔭高校。2020年は東大に過去最高の85人が合格して話題を呼んだ。休校対策として4月からネットを使った課題の配信や回答などを進める。小林裕子教頭は「まだ本格的なオンライン授業というわけではないが、ネットで教師と生徒でやりとりできる環境は構築している。ただうちはやはりリアルの授業を大事にしたい」と話す。
桜蔭の特徴は教室の3枚の黒板を同時に使う授業。休み時間中に宿題の数学などの数式や解答を3枚の黒板にびっしり書き込み、授業が始まるとすぐにその解説から始まる。「真面目でコツコツ積み上げてゆくのが桜蔭生。早く通常授業を再開したい」という。
2020年は東大、京大、一橋大学、東京工業大学の難関4大学と、国公立大学医学部医学科の現役合格者は合計で70人を突破した都立日比谷高校。復活劇を仕掛けた武内彰校長は、自ら教壇に立ってオンラインで物理を教える。ライバルの都立西高校などもオンライン授業のための準備を急ぐ。
「とりあえず段ボール1個分の課題を送っておきました」。4月中旬、渋谷教育学園幕張中学高校の田村哲夫校長はそう話した。自ら調べて自分で考える「自調自考」を是として、男女共学で国内トップの進学校をつくり上げた。サッカーやテニスなどスポーツの育成にも力を入れ、東大など国内難関大学だけではなく、海外の有力大に多数の生徒が進学するグローバル人材養成校として注目を集める。
オンライン授業の対応も急ぐ一方で、「こんな時は慌てず騒がす、自分はどう学び、生きるのか、休校期間中にじっくり考えてほしい」と「自調自考」を促す。
進学校は良質な授業を提供しているだけではない。運動会や文化祭など各種行事を通じて、コミュケーションやプレゼンテーション能力を高め、リーダーシップやチームワークづくりを学ぶ場としている。オンライン授業の対応のみでは限界がある。「部活や行事は大事な教育装置」(開成の柳沢前校長)。しかし、感染症が世界的に拡大するなか、ネット対応は不可欠だ。ネットとリアルを融合した新しい教育の場を構築する時期が来ているのかもしれない。
(代慶達也)