バイリンガル警官、日本とブラジルをつなぐ
愛知の移民先進地を訪ねて(4)
外国人が多く住み始めた街を抱える愛知県。語学ができないと警察も仕事にならなくなった。
「クアル・エア・スア・ナショナリダージ(国籍はどこですか)」――。駅前で、地図を持ちながらきょろきょろしている外国人風の男性を見つけた愛知県警の男性警察官(32)は、すかさずポルトガル語で話しかけた。
愛知県警では、交通安全や防犯などに関するパンフレットを、ポルトガル語などに訳して対応している
男性警察官は当時の状況を今でも鮮明に覚えている。男性は日系ブラジル人だった。「まさか日本人の警察官がポルトガル語を話せるとは」と驚いていたが、故郷の言葉を聞いてすっかり安心したようで「ポルトガル語はどこで学んだの?」「ブラジルには行ったことあるの?」などと、逆に質問攻めしてきた。男性はしばらくポルトガル語の会話を楽しんだあと、目的地の駅までの行き方を聞き、電車に乗っていった。
「言葉ができないというだけで、外国人が不利益を被るようなことがないように」。刑事になるのが夢で愛知県警に就職したこの男性警察官は、就職後にポルトガル語を覚え、語学をいかして愛知県内の事件・事故解決のために奮闘している。
九州出身のため、愛知県にこれほど日系ブラジル人が多く住んでいることは就職するまで知らなかった。日系ブラジル人が多い地域でパトカー乗務員として勤務していたときは、道案内や落とし物などで声をかけられることも多かったが、うまくコミュニケーションが取れず、悔しい思いをした。
ある日、住民からスペイン語で声をかけられた先輩警察官がスラスラとスペイン語で返答したのを見て、ハッとした。自分も語学ができたら、もっと職の幅が広がる――。
ポルトガル語と格闘
ポルトガル語の語学講座受講にすぐに手を挙げた。語学研修の7カ月間はきつかった。朝7時に起きたらすぐに、トイレで前日に習った単語の復習から始める。通学の電車でも、リスニングを欠かさない。授業が終わり帰宅した後も、午前0時~1時ごろまで猛勉強だ。週末もどこにも出かけず、自宅にこもって勉強を続けた。
愛知県警本部(名古屋市中区)=共同
研修を終えたあとは、県警本部の国際警察センター配属の通訳官として、様々な事件に関わった。ポルトガル語の通訳が必要な事件が起こった場合、深夜でも要請があった署に電話をかけて通訳をしたり、家宅捜索の現場に駆けつけたりする。
激務でも頑張ろうと思えるのは、日系ブラジル人に、少しでも、日本の警察を身近に感じてもらい、より安心、安全な地域にしたいからだ。ブラジルでは、警察の汚職が問題になり、警察官の評判は良くないという。日本の警察もどうせブラジルと同じだろう、と思っている日系ブラジル人も多いようだ。