多国籍の生徒たちが1つになった瞬間 ある中学の奇跡
愛知の移民先進地を訪ねて(3)
朝からの雨もやみかけた2月6日午後、知多市立つつじが丘小学校の卒業生が進学することになる知多市立八幡中学校で、4月に入学する生徒、保護者を対象とした入学説明会が開かれた。
愛知県知多市立八幡中学校で外国人の保護者を対象に開かれた入学説明会
制服の説明、必要なもののリスト、部活動の状況等、生徒らに渡された資料は、それなりの厚み。説明は数時間に及んだよう。
同じ頃、外国人の保護者は、普段、日本語の指導を必要とする生徒たちが使う教室で説明を受けていた。
多言語対応はお手の物
この日参加したのは、ブラジル人2人、フィリピン人1人、ボリビア人1人の計4名。日本語の出来ない彼らのために学校側は、ポルトガル語、タガログ語、スペイン語の通訳をそれぞれ手配し、資料もすべて母国語に翻訳されたものを配布している。さすがに長く"国際化"の波にさらされてきた学校だ。
会の進行を務めていたのは、小学校では「さくら教室」と呼ばれ、中学校では「日本語適応教室」と名を変える支援教室担当の竹内あつ子先生。3年前、同教室の礎を築いた前任の小林隆先生から引き継いだ。
専門の保健体育から未知の領域に足を踏み入れたきっかけは、赴任して間もない頃に「テストを監督したことだった」という。
「外国人の子供たちが、何もしてなかったんです」
説明会で配られた資料は、多言語に訳されている
彼らの答案用紙が白紙なのは、答えが分からないのではなく、問題文そのものが理解できないのだと気付き、「答えのヒントにならない程度に、漢字にふりがなをふってあげた」そう。
今では、外国人生徒用の問題にはふりがながふってある。だが現実としてふりがなだけではすべてを解決できず、日本人には見えないものの、外国人生徒にははっきりと見える壁は、今も消えずに残る。
つつじが丘小学校を卒業して八幡中学校に進学してくる子供たちは、「さくら教室」のおかげもあり、日常会話程度なら、問題なく対応できる子がほとんどだ。
日常の言葉と違う"学習言語"
しかし、 中学レベルともなれば、授業でも教科書でも日常では使わない、いわゆる「学習言語」が多くなる。日常会話ができたからと言って、必ずしも授業についていけるとは限らない。竹内先生も「日常言語と学習言語は、全く違うものなのです」と指摘。子供たちにとって、そこが大きな壁となる。
竹内先生が、テストの出題例から日常言語と学習言語の違いを示してくれた。
「次の各問いにあてはまる適当な語句を下の語句欄から選んで、記号で答えなさい」
「各問い」「適当」「語句」「記号」といった言葉に、多くの外国人生徒はまず戸惑う。答えを導く以前に、別の理解力を求められる。
この設問を「次の問題にあう正しい言葉を、下の言葉の中から選んで、ABCとかアイウなどで答えなさい」というところまでかみ砕けば分かるが、これでは定期テストの意味合いまで変えてしまう恐れがある。