「リンゴは?」から始まる 移民教育の喜びと悩み
愛知の移民先進地を訪ねて(2)
2月1日、まだ早い時間に子供を連れた外国人が、1階の正面玄関を入って少し廊下を進んだ左手にある職員室のドアをノックした。
外国人児童が増えている愛知県知多市立つつじが丘小学校
「ツウヤク、ツウヤク……」
対応に出た職員には、その言葉だけを片言で伝え、あとは通訳が来るまで、不安げに待っていたという。
飛び込んでくる異文化
その日、愛知県にある知多市立つつじが丘小学校を訪れたのは、南米の多民族校ボリビアから引っ越してきた親子だ。ボリビアには公用語がスペイン語、ケチュア語など複数あるが、もちろんそこに日本語は含まれず、親も児童も、全く日本語を理解できない状況で、日本社会に飛び込んできたのだった。
対照的に小学校側はスムーズに対応。やがて、転校してきた児童は担任の先生に連れられ、教室へ向かっている。
その日午後、小学校を訪ねると、西尾一教頭が言った。
「一緒に様子を見に行きますか?」
まったく日本語を話せない外国人の児童がどうやって日本の学校生活へ適応していくのか。学校側にとっては、馴染んでいけるのかという不安もあったはずだが、異国からの転校生を迎えた3年2組の教室をのぞいたとき、教頭先生の頬が緩んだ。
書写の時間が終わり、やがて休み時間が始まると、転校生の周りに日本人の児童が集まり、次々と腕相撲を挑み始めたのである。
「まあ、とけ込んでいるようですね」と西尾教頭。そして続けた。「やはり、この学校の児童は慣れているのかもしれません」
つつじが丘小に通う子供たちの国籍は様々だ
愛知県名古屋市から南へ20キロほどのところにある知多市つつじが丘は、昭和40年代に開発が進んだ知多半島北部にある小さな街。名鉄名古屋駅からは特急に乗れば20分ほど。交通の便の良さと海に面した環境が魅力といえる。
1973年に開校したつつじが丘小学校は昨年創立40周年を迎え、記念パンフレットによると、昨年度は全校児童数387人に対し、約14%(54人)がブラジル、フィリピン、ボリビアなどから来た外国人の児童だった。
教頭先生の「慣れている」という言葉の裏にはそんな背景があるわけだが、この学校がユニークなのは、国籍の多様さか。
1990年に出入国管理法が改正され、日系人の就労が可能となったとき、多くの日系ブラジル人が祖国に職を求めた。このため外国人が多い学校といえば、日系ブラジル人の児童、生徒が多くを占めるのが一般的だが、同校にはパラグアイ、ドミニカ共和国から来た児童もおり、西尾教頭によれば、「過去にはインド、ペルーからの転校生が在籍したこともあった」という。
4月から中学校に進学する鈴木萌水(もえみ)さんも、「保育園の頃から周りにはいつも日本語が話せない人がいた。身近に外国人がいることには慣れていて、日本語が話せなくても、特に気にならない」と話した。