最後の決め手は全日本への思いです。あのとき消滅するかもしれないといわれていて、元子さんに「僕が戻ったら続けるんですか」と聞くと、「がんばりますよ」と返してくれます。「ふるさとがなくならなくて済むんだな」と感じました。相撲をやめて最初に来たのが全日本でしたから。
00年7月の全日本の後楽園ホールの試合前、元子さんに「リングに上ってあいさつしてもらいます」と言われました。踊り場で待ち気持ちを高ぶらせながら「ファンが拒絶するかもしれない」と思っていました。
元子さんがマイクで「再スタートにあたり、皆様の前で握手していただきたい方に来ていただいております」と切り出し、その後「ご紹介させていただきます。天龍源一郎選手です」。皆が度肝を抜かれたようなドォーという観客の反応です。くだらない邪念を取っ払いリングに入りました。
10年ぶりに戻った全日本のスタイル、ファンは全然変わっていなかった。ただ、迎え入れてくれた選手がよそよそしかったですね。
[日経産業新聞2018年3月29日付]
※天龍源一郎氏の「仕事人秘録セレクション」は水曜掲載です。

てんりゅう・げんいちろう 本名・嶋田源一郎。1963年、福井県の勝山市立北部中学2年のときに二所ノ関部屋入門。76年廃業し、全日本プロレス入団。90年SWS移籍、92年WAR設立、98年からフリー。2010年天龍プロジェクト設立、15年現役引退。