味噌香ばしい焼きまんじゅう 1串4個が上州の常識?
縁日系(4)
盛岡に行って来た。前にも書いたかもしれないが浅田次郎の『壬生義士伝』を読んで以来、主人公吉村貫一郎の姿を通して南部士魂っていいなあ、うつくしいなあと思い続けている。貫一郎が妻子を貧しさから守るために心を残して去ったのが南部藩の城下町盛岡。小説ではその美しさが何度も何度も詩情豊かに描かれる。
地元では貫一郎ゆかりの地に説明を書いた高札みたいなものがたっていて、ほとんど実在の人物扱い。いずれ吉村貫一郎は小説の中の架空の主人公ではなく、実在した武士と信じる人々が大量生産されるのではないだろうか。
盛岡三大麺は「わんこそば」に「盛岡冷麺」に「じゃじゃ麺」。と思っていたら「南部はっと鍋」という新作も登場していて市のパンフレットでは「四大麺」になっていた。昼間にじゃじゃ麺を食べたが、そんな報告をしても当サイトの読者にはつまらないだろう。そこで東京のじゃじゃ麺のことを書こう。
ある日、かつてじゃじゃ麺の取材に行った別の部の記者を、用事があって東京に来ていた盛岡の人が訪ねてきた。そしてこんな言葉を残していった。「神田にうまいじゃじゃ麺を食べさせる店がある」
この話は即座に私の耳に入った。私はその記者に聞いた。
「どこどこどこよどこなのよ」
「えーっと、神田の駅の向こうっかわの何とかという店だと言ってました」
「何とかだね。わかった今夜行こう」
何の躊躇もなく、私はその記者に介助してもらって何とかという店に行ったのだった。それは小さな中華料理の店でテーブルが五つ六つ。時間が早いせいか1組しかいない。私たちは適当にテーブルを選んで座り、メニューに見入った。中華料理は1皿の分量が多いと持て余す。しかし、その店は普通サイズのほかにほぼ全品に「小皿」というのがある。ありがてえ。
イカをどうしたとかチンゲン菜をどうしたとかクラゲと大根をどうしたとかいう小皿を3品ばかり頼んでみた。すべて500円ほどである。しかもはずれなし。イカはびっくりするくらい軟らかいしチンゲン菜はカニ肉をまとってシャキシャキしているしクラゲと大根は相性いいしで、歯も折れよ顎も砕けよというくらいの気持ちで食べたのである。
最後に頼んだのがじゃじゃ麺ではなく炸醤(ザージャン)麺。汁なしの肉味噌そばである。注文して出てくるまで時間がかかることはわかっていた。で、紹興酒などを追加してしゃべっていると平たい丼にてんこ盛りの物件が登場した。ほかの店では肉味噌の肉は機械で細かくしたミンチが多いが、ここは包丁で叩いた細切り肉。中華味噌の中には肉と刻んだピーマンが入っている。具はほかに千切りのキュウリと白髪ネギ。
肉味噌もうまいが、驚いたのは麺だった。注文を受けて小麦粉をこね、伸ばして切ってゆでたもの。つまり打ち立てゆでたてであった。コシはないがもちもちつるつるで紛れもなくちょっと平べったいうどんである。うめー。
量がすごい。2人で1皿に取り組んだが、食べても食べても減らない感じ。850円。安い。
店主は中国東北部のハルビン出身。「子供のころに母親がよく作ってくれたのと同じものです」と笑いながら言っていた。この店にはよそでよくあるようなラーメンと同じ中華麺を使った炸醤麺はない。少なくともハルビン周辺では、うどんを使ったものが伝統的な炸醤麺ということになる。
盛岡のじゃじゃ麺は炸醤麺の姿をよく伝えている。中国味噌や豚の細切り肉は日本の味噌、ひき肉などで代用されているが、安直にラーメンの麺で済まさなかったところがエライ。さらに、本場にもない「チータンタン」という卵と麺のゆで汁などを活用した締めのスープを考案したところもエライ。
本題の方の「イカ焼きvs煮イカ」はVOTEの結果が出た。
まず「煮イカ」の生息地。簡単に言うと栃木・茨城に特異的に存在する。この両県は郷土料理「しもつかれ」を共有し言葉の方言も極めて似通っている(らしい)。兄弟みたいな地域だっぺよ。徳島や静岡にちょびっとはあるかも知んねえけど(語尾上げる)、栃木と茨城の食の方言だんべ。以上。
これまでに紹介できなかったメールを少々。
ほかの縁日では見たことがないような気がします。あれはローカル縁日ものなのかそれとも縁日に限らず長谷寺周辺の土着菓子なのか、関西に住んでいない今となっては確認しようがありません(元関西人さん)
逃げ出させていただきます。読んだだけで歯が痛くなってきました。
それから、神戸・南京町には毎日中華料理の屋台が出ていますが、「串刺し唐揚げ」(最近はコンビニでもありますね)と「串刺し凍らせパイナップル」を交互に食べるとお腹をこわします。なんのこっちゃ(いけずな京女42歳さん)
ほう、京都にはそんな縁起ものの食べ物があったんですか。謂れは何でしょうかね。鳥にかけて「もうけをトリますように」?
「しがむ」は固いものをかみしめてしみ出すものを味わう感じでしょうか。
デスク興味深々 「しがむ」って初耳の単語です。京都の言葉なんですか?
大阪でも言うんじゃないかな。
間欠的に登場している「芭蕉せんべい」あるいは「たぬきせんべい」。実は、私はこの物件を知らない。焼いているうちにびろびろと広がって、芭蕉の葉のように大きくなるようである。またはタヌキの伏せ字系を思わせる状態になるようでもある。しかも、お尻ふりふりオモロイことを言いながら売る年齢不詳の名物おじさんがいるようである。探偵ナイトスクープにはがき書きました? みんなでどっとはがき出したら採用になる確率は高いと思う。過去に取り上げていないなら。
かきもちの薄いものを火の上で伸ばしながら焼くんですね。なるほど。有楽町・交通会館の中にある「むらからまちから館」にあるかもしれません。あったら買います。
せんだってそこに行って、かつて「ご当地丼・ライスもの」に登場した宮城の「あぶら麩」を求めました。「仙台麩(あぶら麩)」と表示されていました。登米(とよま)町の「あぶら麩丼」はJR東日本の車内誌に登場していました。なぜこれを買ったかというと今度の休みの日に、あぶら麩丼を作ろうと思っているからです。
私の誕生日に娘が手紙をくれました。そこには「いつも休みの日に珍しいものを作ってくれてありがとう」と書いてありました。アルファ米をコーラで戻してカレーをかけたものを食べさせたのがよほど印象に残っているようです。
秋田・象潟発祥説が初めて登場しました。そして、芭蕉せんべいをたぬきせんべいという呼称が入り交じって存在しているようです。早く、現物を入手して研究したいものです。
あの豊下製菓の豊下さんからも芭蕉せんべいに関するメール。
芭蕉せんべいは、25センチ×10センチほどの薄い笹の葉型をした少量の砂糖入りかき餅です。餅焼き網にのせ、菜箸でしごきながら炭火などの穏やかな火で焦がさないように丁寧に焼きます。少量の砂糖が入っているために、元の大きさの3倍ほどにも大きくなります。色は薄紅・黄・あお(緑色)・薄茶・白だったと思います。芭蕉の葉っぱに似ているのが名前の由来でしょうか。
松尾芭蕉が最後の宴会をした料亭「浮瀬(うかむせ)」をはじめ、蕉門の俳人ゆかりの史跡や、芭蕉の葬送に関わりの深い土地柄故についた名かも知れません。材料の素性がしっかりしているのと、火が通っているので衛生面の問題もなく、嵩(かさ)の割にはご飯が食べられなくなるほどにお腹にたまらないので、ええしの子でも買ってもらえた、貴重な縁日系のお菓子です。
砂糖少量入りのおかきが正体です。関西にあります。仙台でも定番です。山形物産展にも登場します。たぬきせんべいという名でほかの土地にもあります。ルーツはどこ? 誰が始めたの? 縁日系の食べ物はギョーカイの方の創意工夫によって生まれるものが多いので、なかなかルーツはわかりにくものです。知ってる人いませんかー。
群馬県民のソウルフード、焼きまんじゅう。先週、お皿にのった現物の写真を送ってくださった女子供文化評論家の荷宮和子さんから続報その他。
この「ふるさと対談」シリーズはなかなか面白くて、滋賀出身のスター安蘭けいが「近畿の人がおいしい水を飲めるのは滋賀県民が家庭で合成洗剤ではなく、粉石鹸を使っているから。滋賀は関西じゃないと馬鹿にする人にはもう水飲まんとってほしい」と語っていたり、長野出身のスター月影瞳(既に退団)が「長野では茶の間に絶対野沢菜がおいてあって、お茶の回数が多くて、その時に煮物とかが出てくる。ただご飯がないだけでほとんど食事と一緒」と語っていたり、北海道出身のスター香寿たつき(既に退団)が「宝塚音楽学校の頃は、関西の食べ物は何を食べても味がついてないように感じて、親子丼にお醤油をかけて食べたりしてた」と語っていたりと、ノリがこのサイトにちょっと似ていました。
宝塚のスターたちの芸名ってどうしてああなんだろうと考えて答えが出ない私です。
発明したのがどなたかは存じませんが、結果、便利なので広まっていったとのこと。だいぶ前に亡くなってしまった祖父の受け売りですけど(都内在住のterさん)
群馬の焼きまんじゅうは寿司界の鉄火巻き、パン界のサンドイッチの親戚だったんですか。いやー驚いた。
かつて愛媛県の南予地方に独特のチャンポン文化圏が存在することを、いささかの屈託と驚きをもって紹介した。そしたら、こんなところにもあったのである。もうひとつのチャンポン文化圏が。
ちなみにチャンポンは彦根名物です! 否定しないでください、最近京都や名古屋にも進出しているので(愛知県 社会人2年生さん)
彦根に行った折、私は野菜炒めと数枚のチャーシューがのったラーメンが「チャンポン」として店のウインドーを飾っているところを写真に収めてきた。そしてこのサイトで紹介した。
あの店、すなわち商工会議所の1階に入っているレストラン独自のメニューであろうと思っていた。ところが違うという。チャンポンは彦根名物で周辺に勢力を広げているという。そうか、そうだったのか。チャンポンを名乗っているのか、堂々と。
い、いかん。いつの間にか歯ぎしりしているではないか。
い、いかん。気がついたら体が震えているではないか。
い、いかん。なぜだが拳を握りしめているではないか。
どうしてだろう。
気分を変える。もう彦根のチャンポンのおかげで本題なんかどうでも良くなってしまった。話飛ぶよー。
実家にいたのは高校生までで、小さいときってあまり外食とかしないじゃないですか。でも、天丼は自信があります。なぜなら熊本の老舗そば麦屋である「すみ田」でもこの天丼を食べたことがあるからです。
天丼って……関東のドロドロのたれに比べると、出し汁の効いた関西風のたれの方がさっぱりとして食べやすい気もするけど、でもやっぱり最後には疲れてしまう。ところが、卵でとじた天丼(天とじ丼)だと、卵のやさしい味わいで、すっきりです。
ちなみに、熊本の実家では天ぷらをソースで食べたりしません。でも天ぷらもカツも出し汁醤油で煮しめて食べることが圧倒的に多かったですね。今でも時々、スーパーの惣菜を買ってきて、煮しめて食べてます。その影響か、セルフ系讃岐うどん店では天ぷらを取っても必ずうどんのつゆに浸してべちゃべちゃにしてから食べます(ちどりの夫さん)
はい覚えておきましょう。熊本では天とじ丼のことを天丼という場合がある。では、卵でとじていないものは何と呼ぶのでしょうか。やっぱり天丼?
それと買ってきたばかりのカツを有無を言わせず出し醤油で煮てしまうのはご実家における突然変異的調理法でしょうか。
我が家においては前夜の天ぷらが残った場合、出し醤油で煮ることがあります。娘の弁当のおかずであります。さらの天ぷらをいきなり煮てしまうことはありません。
デスク賛成 そうです! 翌朝の天ぷら出し醤油煮です。揚げたてでない揚げ物、とりわけ、日付変更線をまたいてしまった天ぷらは、通常ならくどくて食べづらいのですが、出し醤油で煮ると不思議とおいしいのです。朝から油ものが食えてしまうのです。これは不思議です。僕は日付変更線をまたいだニンジン天ぷらの出し醤油煮が死ぬほど好きです。
デスクは死ぬほど好きな食べ物がいっぱいあって幸せだね。
三林京子さんからご質問。
ご存じの方はメールを。
実はちょっと意表を突かれたメールがある。縁日の光景ばかり頭に浮かべていたので思いつかなかったのだが、こんな全国比較もできるのだろうか。
それは子供のころ海水浴のときに海の家で食べたメニューについてです。私は、山梨県に住んでいましたが、親が単身赴任で静岡県の下田市におりましたので海水浴はほとんど伊豆の海に行っていました。そのとき、海の家で食べた物といえばカレーライスとラーメン、イカの姿焼きと焼きハマグリ(大アサリだったかもしれません)・トウモロコシ。そんな物だったような記憶が残っています。
しかし、大学を出てから大阪で就職し現在に至っておりますが、まわりの友人たち(当然生粋の関西人です)は、「海の家にカレーやラーメンがあるわけないやろ。海の家といえばうどんとおでんやで。イカ焼きだのハマグリなんて見たことないで~。焼き物はあっても焼きそばくらいや。あほちゃうか~」と言います。神戸や和歌山ではそれが常識だとまでほざいています。
京都出身のウチの家内は海水浴は日本海方面に行っていたらしいのですが、やはり昼食はうどんを食べていたと言っております。私は海の家でうどんなんぞ見たことがありません。
もしかしたら日本全国の海の家で食べられている物に地方独特のメニューとかがあるのでしょうか? テーマとしてはちょっと面白いと思うのですがいかがでしょうか?(大阪府和泉市の加藤さん)
そう言われてみればそうである。はっきりと記憶に残っているのは神奈川・葉山の海水浴場。子供たちはカレーを食べていた。うどんはなかった。ラーメンがあった。静岡では土地柄もあっておでんが定番の一品というし、確かに地域差はあるかもしれない。
海の家の定番はカレーかおでんか、はたまたラーメンかうどんか。
面白いのではないでしょうか。
決定! 次回のテーマは「季節外れの海の家」である。写真のことを考えなくちゃいけないが、いざとなったらデスクにイラスト書いてもらうって手もあるぜ。よーし、やろ。チューブやサザンのCDでも引っ張り出してきて、気分は真夏の海だー。
デスクどきっ えっ、お絵かきのレッスンしないと。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界