意外に多い「釣鐘型」 まん丸だけがたこ焼きじゃない
たこ焼き・お好み鉄板系(3)
大阪で公演中の三林京子さんから突然荷物が届いた。見たこともない物件である。ドライフルーツのようでもあり、動物系のようでもある。何だべか。
彼女のHPの中にある「ああ書けば こう食う」を思い出した。「幻の油かす」である。刻んで炒めてお好み焼きやねぎ焼きに混ぜるやつ。香ばしく、味に奥行きが出る。でも「幻」というくらいだから、大阪でもなかなか手に入らないようである。貴重なものなので大事に食べたいと思う。
で、ピンときたのが「富士宮やきそば」の必需品「肉かす」である。背脂からラードをとった残りの部分なので当然背中の肉。ところが大阪の「油かす」は脂を取った腸なのだそうである。大いに味わいが違うことであろう。ますます楽しみなのである。
ひとつのテーマが浮上している。釣り鐘型たこ焼きの存在である。これまで秋田での目撃情報が寄せられている。そしたらあっちこっちから同じようなメールが届いた。かなり広範に釣り鐘型たこ焼きが頑張っているらしい。
中野町辺りで、鯛焼きたこ焼きお好み焼きの店で、??商店(店名忘れました)。15年くらい前まではありましたが、今そのお店があるかどうかは知りません、ごめんなさい(地元を離れて早14年、現在東京在住 MIYOさん)
秋田に続いて大垣、仙台、大分にもいた。道具が同じようであるし「八ちゃん堂」はチェーン店なので、釣り鐘型はかなりの勢力になっている可能性がある。大阪の丸いたこ焼きが全国に広がる過程で、中京地区のようにキャベツが入ったり釣り鐘型になったりしてきた。「食文化は伝播の過程で変容する」である。巨大化もその一方向であろうか。
先週紹介した某パーキングエリアの巨大たこ焼きのときにも思ったのですが、こんなサイズの、しかもイイダコがまるまる一匹入ったような物件をどうやって食べたらいいのでしょうか。がぶりとやれば火傷しそうです。といって手で割るのも危険です。
ナイフとフォーク? いえ、冗談ではなく私はかつてナイフとフォークでたこ焼きを食べたことがあります。
それは大阪の某有名ホテルのランチビュッフェでした。完全洋食のビュッフェなのですが、そこは大阪です。たこ焼きがないとおさまりません。で、ありました。フレンチ、イタリアンにまじって堂々のオオサカンです。
といってもシェフ帽をかぶった人が焼いているのではなく、何と半自動たこ焼き器が活躍していたのです。例のたこ焼き鍋のくぼみに溶いた小麦粉とタコを入れます。そしてスイッチオン。すると鍋はブルブルと高速で振動します。目打ちでひっくり返す必要はありません。振動でタコボールが自分で少しずつ回って、あっと言う間にまんまるボールのできあがり。
さて食べようとすると箸がない。あるのはナイフとフォークのみ、というわけなのでした。外国人の客も多かったのですが、彼らは何の疑問もなくナイフで切って口に運んでいました。地元オオサカンの客は何の疑問もなくテーブルのつまようじを使っておりました。私はナイフで手元に引き寄せフォークで突き刺して食べました。
ソースをかければたこ焼き、出し汁にひたせば明石(卵)焼きというのは、やはりゴーイングマイウエーだと思います。強引グマイウエーね。念のためですが。
大阪の人、明石の人にとってはチャブニチュード測定器の針が激しく振れると思います。
しかも食べ残すと1個100円です。「これは明石焼きではなーい」と抗議の食べ残しをした人がいたらどうするんでしょうか。小競り合い発生?
大阪のたこ焼きはいろんな所に出かけているが、その始まりの情景はこのようなものであった。
居並ぶ名店に負けず、1週間の会期中は大盛況。大阪出身者の中には涙を流さんばかりに喜んだ人もおられたそうです。ちなみに醤油焼きではなく、ソ-ス焼きでした。このたこ焼き屋さんも早くに店を閉めましたが、うれしい新陳代謝もあって、かやく御飯に明石焼きをのせた品もんや、白湯ス-プで粉を溶いたたこ焼き等を提供する意欲的なお店や、ごくごく当たり前に美味しいコナモンがあちこちに溢れています(豊下製菓の豊下さん)
これで大阪のたこ焼きの東京進出は昭和30年ごろであったことがわかります。しかも場所は百貨店。札幌ラーメンがブレイクしたのも昭和40年に東京と大阪の高島屋で開かれた北海道物産展がきっかけでした。当時の百貨店の文化発信力は大きかったのです。
昭和38年生まれのデスクへぇー えっ、じゃあその前は東京では味噌ラーメンやたこ焼きは食べていなかったのですか? 今では東京のどこを歩いていてもチェーンの札幌ラーメン店や屋台のたこ焼き屋が溢れているというのに。
サッポロラーメンチェーン「札幌や」渋谷店ができたのも昭和40年3月。これが東京進出第1号ね。
かやくご飯に明石焼きをのせた物件を食べたことはないが、どうも関西では思わぬところで明石焼きが活躍する。
姫路辺りでは明石焼きにソースをかけ、出し汁をソース味にして食べるということだが、ここでは味噌汁の具になっている。明石からちょっと離れると明石の人が目ん玉ひんむくような食べ方が出現する。やはり明石が周辺市町村と合併するのは無理かもしれない。合併してもすぐ明石焼きの食べ方を巡って市議会紛糾?
確かに関西ではお好み焼き定食、焼きそば・うどん定食、ねぎ焼き定食はある。しかし、ごく一部の店を除いてたこ焼き定食はないのである。あんなにソース系澱粉をご飯のおかずにするのに、なぜたこ焼きだけが仲間はずれなのか不思議でならないのである。
浜松のお好み焼きには、刻みたくあんが入るという話を覚えておられるであろうか。
ちなみに私が子供のころは自宅から卵を1個持参してそのお好み焼き(当時1枚90円)に入れて焼いてもらい、おやつがわりに食べました。基本的には飲み水は出してくれなくて、店のジュースを買いました。水がどうしてもほしいときは1杯5円払った記憶があります(浜松でお好み焼き店を経営している古橋さん)
現在も浜松では遠州焼きは健在なのでしょうか。健在なのでしょうね。遠州焼きという名前があるくらいですから。いつか食べてみたいと思っております。先日、渋谷の缶詰めや魚肉ソーセージがある店で「いぶりがっこ」を食べましたが歯が耐えられましたので、きっと堪能できると思います。
それにしても、水ぐらいただで飲ませてやったっちゃよかやんね。5円もとらんでよかと思うよ。
お好み焼きに関する10年来の疑問。
私は横浜生まれの東京育ちで遺伝子的には道産子という関西圏に縁のない人間ですが、職場で一時期大阪人に囲まれたことがあります。初めて本格的に触れた大阪文化にびっくりすることがしばしばでした。レイコーやらフレッシュやらもそのときに知りました。その大阪人たちと一緒にお好み焼きを食べに行ったときに、私が当然(と思っていた)ケーキみたいにいくつかの半径で切り分けようとしたら、すかさず「そんなふうに切ったらアカン! そんなんして切るのはピザだけや!」と怒られました。大阪ではタテヨコに切るらしいのですが……本当でしょうか(お名前ありません)
流儀があるのかどうか知らないが、私は四角派である。なぜそうなのかわからない。でも確かにピザのようには切らない。大阪からのメールを待つ。浜松の古橋さん、そちらではどうですか?
デスクふむふむ 確かにそうですね。韓国のチヂミでも店によって「タテヨコ式」と「ピザ式」があるのを思い出しました。ちなみに我が家は「ピザ式」です。山口発広島経由東京行きのエミーは?
エミー隊員 ウチはタテヨコですね。ちなみに広島風は苦手です。私の広島の知人は「関西風はぐちゃぐちゃになってて汚らしい!」と広島風の良さをアピールしていましたが、あんなに厚いもの、どうやって食べろって言うんですか。断固として関西風です。
最後に、こんな鉄板ものはいかがだろうか。
生卵にお醤油少したらして割りほぐし、そこへ冷やご飯と青ネギを刻んだものを入れてかき混ぜます(どろどろの状態)。これをお好み焼きを焼くように鉄板に丸くのばし焼きます。食べ方はそのままでもいいのですが、ソースやマヨネーズを塗布した上にカツオやノリをトッピングするのいいようです(生まれも育ちも大阪の大阪さん)
私は試してみる勇気を持ち合わせていない。誰かやってみて。デスク、やるー?
デスク興味津々 一度やってみましょう、面白そう。でも、中学生のころ、剣道部の思い出が頭をよぎりました。そのとき、黒いラバーを張った真夏の校舎屋上でトレーニングをしていたのです。剣道といえば素足、常に体を動かしていないと足の裏をヤケドしてしまうほどです。あまりの暑さとしんどさで、もうふらふら。ついに私は朝食の納豆かけご飯を戻してしまいました。そして、それはあちあちのラバーの上で、見る見る固形化していったのです。仲間内でそのエピソードは「納豆ピザ」と呼ばれています。
エミー隊員 デスクってば、もうサイテー。
当サイト史上最汚。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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