甘味・酸味・苦み…ビールと料理、組み合わせバランス
料理に合わせてビールを選ぶ(3)
3つ目のCとBは、
Combination(組み合わせ)とBalance(つり合い)です。
これは、ビールと料理の味わいや香りを調和させたり対比させるということです。
味覚には、甘味、酸味、苦味、塩味、旨味などがあります。さらに、辛味、渋味といった要素も絡んできます。
これらは、それぞれが調和したり、他の味覚を強めたり穏やかにさせたりといった関係を持っています。この相関関係を利用してペアリングを行うのです。
まず、同じ味覚同士は調和します。
甘味と甘味、酸味と酸味、苦味と苦味。バランスを崩すことはありません。苦いビールに苦い料理を、甘いビールに甘い料理を合わせると調和がとれます。
しかし、どちらもが強い苦味や甘味ならば"苦すぎる""甘すぎる"という組み合わせになってしまうので、注意も必要です。過ぎたるはなお及ばざるがごとしです。
甘味と苦味="あまにがい"
さて、問題は、違った味をどのように組み合わせるかです。
例えば、甘味と苦味。これは"あまにがい"という、人にとって心地よい味覚の組み合わせになります。苦味の強いエスプレッソコーヒーに砂糖を入れれば、苦味が得意でない人でも飲むことができますし、飲み終わったあとカップの底にたまった砂糖を甘いものが苦手な人でも舐めることができます。
実は、ほとんどの焼き菓子、そしてチョコレートもこの"あまにがい"という組み合わせなのです。そして、ビールもモルトの甘味とホップの苦味が組み合わさったお酒です。"あまにがい"は鉄板と言えます。
苦味の強いIPA(インディア・ペールエール)に甘く煮た黒豆や金時豆を合わせたり、甘味のしっかりしたベルジャンスタイル・ダブルとともに苦味の強いゴーヤ料理を楽しめばそれぞれの味が調和して丸くおさまります。
甘味と酸味="あまずっぱい"
甘味と酸味は"あまずっぱい"という組み合わせになります。ほとんどのフルーツジュースはこの組み合わせですね。あまずっぱいも、人間が好きな組み合わせなのです。レモンの輪切りをはちみつに漬けこめば、酸味に弱い人も甘いものを好まない人も楽しめます。
甘味のあるスコッチエールに酸味のある酢の物、甘味のあるカボチャの煮付けと酸味のあるベルジャンスタイル・フランダース・オウド・ブリュンエールの組み合わせは絶妙です。
甘味と塩味=甘味が際立つまたは"あまからい"
甘味と塩味の関係は、塩味の量によって効果が変わってきます。
甘味に対して塩味が少ない場合は、塩味が隠れて甘味が強調されます。スイカに塩を少しかけると、塩味は感じず甘味が際立つのはこの原理です。
甘味と塩味が同じぐらいだと、"あまからい"という味わいになります。これは和食の味付けの基本と言っても過言ではありません。砂糖やみりんと醤油の組み合わせです。
塩味のあるビールはドイツのゴーゼというビールぐらいしかないので、ほとんどは甘味のあるビールと塩味のある料理の組み合わせということになります。
ポテトチップス程度の塩味に中程度の甘味を持つジャーマンスタイル・メルツェンを合わせると、ビールの持つ麦芽の甘いキャラクターがぐっと引き立って出てきます。また、しっかりとした塩味のあるイカの塩辛を肴に、甘味のあるトラディッショナル・ボックを飲めばそれぞれの魅力がめいっぱい発揮されます。
酸味と塩味=調和して互いが和らぐ
酸味と塩味は混ざることにより、お互いの刺激的な味わいを緩和させます。具体的な例としては梅干しがあげられます。
塩鮭やメザシといった干物、鯖のへしこなど塩味の強い食べ物と酸味の強いグーズ・ランビックの組み合わせはとても面白いペアリングと言えます。
甘味/酸味と辛味=辛味が和らぐ
甘味や酸味は辛味を和らげます。辛味は、正確には味覚ではなく口全体に及ぶ刺激ですが、この刺激を甘味と酸味が穏やかにしてくれます。
甘味が辛味を和らげる例は、スイートチリソースです。甘味がホットなチリの刺激を和らげます。
酸味が辛味を和らげる例は、インド料理のライタ.ヨーグルトの和え物.やヨーグルトドリンクのラッシーです。ヨーグルトの酸味で口の中がリフレッシュされ、辛い料理も食べることができます。
辛味のあるビールは、チリペッパービールやスパイスビールがあげられます。これらに甘味のある料理や酸味のある料理を合わせると辛さが緩和され、心地よく楽しむことができます。
また、辛味のあるタイ、インド、メキシコ、四川料理などには、甘味のあるヴィエナスタイル・ラガー、酸味のあるベルジャンスタイル・ホワイトエールやセゾンをペアリングすることをお勧めします。
[日経プレミアシリーズ「ビールはゆっくり飲みなさい」(日本経済新聞出版社)から抜粋]
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