これは何も、飲食店に限らない。ビジネスではごく当たり前の「いろはのい」だ。

社会的適応力とはコミュニケーション能力

玄さん:「うちにいる服役経験者の中には某一流ホテルのコックとして腕をふるっていた人や、超一流大学や大学院を出て将来を嘱望されていた人だっています。学歴や職歴に関係なく、出所者にはどこかで社会的な適応能力を欠いていたせいで事件を起こしたというケースが少なくありません。社会的適応力とはコミュニケーション能力と言い換えることもできます」
梶原:「玄さんが指導に重きを置いている<時間感覚>は、社会適応に必須なコミュ力の、重要なポイントですね」
玄さん:「対人関係を決定的に悪くする<遅刻>とは、相手との時間的約束を破ることですが、一方で<自分で決めた、自分との約束を守れない結果だ>とも言えます」
梶原:「他人も裏切る、自分も裏切る……時間感覚を持てないと大変なことになりそうですね……」
玄さん:「人生と一口に言いますが、人生とは時間そのもの、命があるとは、時間があること、と言い換えてもいいぐらいに大事なものだ! そう、出所者には指導します。もちろん時間が大事なのは出所者に限ったわけではありませんが」

玄さんの活動は「DVやストーカーに悩まされる女性を助ける」から始まった。これまでサポートしたのは3万人以上に上る。

近年の「駆け込み餃子」や「出所者居酒屋」など、飲食店で出所者の社会復帰に力を入れてきた理由は、DVやストーカーの加害者の中に、出所後の行き場を見いだせない人が相当数存在する“現実”を変えようと思ったからだ。

相手の時間を理不尽に支配する犯罪

DVもストーカーも「相手の時間を理不尽に支配する犯罪」という側面がある。玄さんが服役者に行う「時間をコントロールする訓練」は、DVやストーカー被害者を減らすことにもつながりそうだ。

ちなみに「出所者居酒屋」が、「不夜城」とも「時間のない街」とも言われる歌舞伎町に存在する意味もあるらしい。

「24時間、時間を一切気にすることなく生活できる特異な街」で、厳しく時間をコントロールする訓練を受講する出所者たちは、他の街以上に「時間の呪縛から解放されたい誘惑」と戦わされることになる。ここでうまくやれれば、大きな自信となる。

「時間を守れ!」
「自分の人の時間はもちろん、人の時間を貴重だと思え」

たたき込まれた出所者は、きっちり3カ月で「卒業」して様々な職種にチャレンジすることになるらしい。

「どんな過去でもやり直しはきく」

玄さんの信念を応援したい。

[2016年6月30日公開のBizCOLLEGEの記事を再構成]

梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は7月14日の予定です。
梶原 しげる(かじわら・しげる)
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。
著書に『すべらない敬語』『そんな言い方ないだろう』『会話のきっかけ』 『ひっかかる日本語』(新潮新書)『敬語力の基本』『最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術』(日本実業出版社)『毒舌の会話術』 (幻冬舎新書) 『プロのしゃべりのテクニック(DVDつき)』 (日経BPムック) 『あぁ、残念な話し方』(青春新書インテリジェンス) 『新米上司の言葉かけ』(技術評論社)ほか多数。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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