服役者の人たちは、それ以前の暮らしぶりはともかく、刑務所での生活を通じ、起床、洗顔、食事、作業、休息、入浴、就寝等々、24時間すべて時間に縛られ規則正しく生きてきた「誰よりもきちんとした時間を過ごす生活習慣」を身につけた人たちではないか。「時間を守れ」など、いわば「釈迦に説法」な気さえしたからだ。

玄さん:「一般の方がそう思う気持ちは十分理解できます。出所者を雇用しようと考えてくださる慈善家の方でさえ、彼らが刑務所生活で獲得したであろう<時間にしっかりしているに違いない長所>を期待する場合があります」
梶原:「私もそういうイメージです。そうじゃないんですか?」
玄さん:「実際には、時間感覚が身についていないせいで、遅刻したり、約束をすっぽかしたりして<再チャレンジを応援したい>と熱意を持つ慈善家の方を失望させ、支援する気持ちを萎えさせてしまうケースが結構あるんです」
梶原:「長い刑務所暮らしで、シャバの生活感覚は失われるだろうと予想できますが<時間の感覚>は、嫌というほどたたき込まれているから、服役経験者は、少なくとも時間にはきちんとしすぎるぐらいしているんじゃないですか?」
玄さん:「もちろん、そういう人だっています。でも、実は、服役を通じ、むしろ時間感覚を失うケースがあるんです」
梶原:「え?」

彼らは「時計なんか見なくたって生活できる」


玄さん:「世間に出て求められる時間感覚とは、自分の時間を自分でコントロールするスキルのことですよね」
梶原:「約束に間に合わせるとか、時間に優先順位を決めて、こちらを先に片付ける、あちらは翌日朝一でとか。日々の暮らしを思い出せば、時間をどう使うかの判断は、対人関係を円滑にする基本的なスキルですからねえ」
玄さん:「服役中の彼らは、自分の時計を見ながら自分で判断する機会はあまりありません。守るべき時間は刑務官の方たちが決めてくださる。極端に言えば時計なんか見なくたって生活できる。起きてから寝るまで、寝ている間でさえ<自分で時間をコントロールする機会>を持たない生活を何年も続けた人が、世間に出て時間で戸惑うのは不思議ではありません」
梶原:「へえ……」
玄さん:「居酒屋だって、お客さんが入店したら一杯目のドリンクは2分以内にお出しした方が喜ばれるとか、メニューをじっくり見てから決めたい方は、そっと遠くから間をとってお待ちするとか。上司と部下でお見えのお客様の場合、なるべく上司の方の注文を先に出すように時間調整するとか。食べるのが遅い客、早い客でお料理をお出しするタイミングをコントロールするとか。時間を個々で判断することにより、快適な空間を提供するのが飲食店従業員の仕事だと思うんです」

マニュアルだらけのお店は別として、「人気のお店」はほぼ例外なく「客とのコミュニケーションが大事」だと考えているようだ。気の利いたあいさつや笑顔とともに、「お客様の時間を大事に考え行動する」ことが極めて大切だと考えるのは納得できる。

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社会的適応力とはコミュニケーション能力
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