関東、餅にあんこ 関西、粒あんの田舎汁粉 ぜんざい
ぜんざい VS お汁粉(2)
先日、世田谷の三軒茶屋に遊びに行った。三軒茶屋略して三茶。世田谷の高級住宅街イメージとは反対に庶民的な街で、びっくりするほど安い店が何軒もある。通りがかった鮮魚店の店頭に生のズワイガニが並んでいて、これが1パイ1500円。2ハイなら2000円だという。即買い。家に帰って1パイはゆで、もう1パイはカニすきにして食べた。
その三茶の喫茶店に「ぜんざい」があった。焼き餅と白玉が入った粒あん汁ありの私からみて正統ぜんざいに抹茶に塩昆布。
デスク知ったかぶり ズワイガニは「越前ガニ」「松葉ガニ」なんて呼ばれたりしますね。初セリでは1匹1-3万円くらいだそうです。一方、そのメスの方は「セコガニ」「香箱」などと呼ばれ、500-800円。越前ガニがあんまり高いので、食べ過ぎを戒めた言葉が「イチニチエチゼン…」。
帰る。
高校時代の家庭科の先生がばりばり京女の面白い先生で、彼女にとっては今も京都が都、日本の中心でした。「料理に使っていいのは、ヒガシマルの薄口醤油だけですよ。某K社(敢えてイニシャルにしました)の濃口醤油なんて、あんなん使うのは板東の田舎者のすることです」と、首都圏を板東よばわりして、この人はいったいいつの時代に生きているんだろうと思わせてくれました。
東京のお店で、「田舎しるこ」なる名称を見た時、「なにを、板東の田舎者が」と、ついその先生の真似をしてしまった私です。今我が家で使っているお醤油は、もちろんヒガシマルの薄口醤油。東京のスーパーではなかなか売っていなくて苦労しますが(東京都江東区在住 井上さん)
京都で「先きの戦」というと応仁の乱を指すなんて言われますが、「板東の田舎者」も凄いですね。「天皇さんはいまちょっと東の方に行ってはりますが」という言葉を京都の人の口から聞いたときには「応仁の乱」はまんざらウソではないかもしれないと思いました。
ところで「旦那をあわてさせる」ほどの怒りの強さってどのくらいですか。チャブニチュード5? でもってその家庭科の先生はK社の醤油を使っている生徒がいた場合、どうしたんですか? 保護者を呼び出して醤油を変えるように指導したんですか? 単位くれない?
ただ関東のお汁粉(時にはぜんざいも)は、汁気がない! 浅草・梅園の粟ぜんざいなんて、粟餅にあんこがのってるだけじゃん! レトルトのぜんざい、お汁粉もカップ麺と同じく東西版があるのでは? 1月11日の鏡開きをレトルトで済ませようとして、びっくりしました。お湯を足して薄めるのかと思った。
ちなみに、現在はどうかわかりませんが、2年程前はあんぱん、あんまん(中華まん)の中身のあんこが関東ではこしあん、関西では粒あんでした。某コンビニの「黒ゴマこしあんまん」が大好きだった私は、関西に引っ越して、売っていなくてショックでした(横浜市在住の主婦さん)
梅園のぜんざいはただのあんこです。あれがあんこじゃなかったら何なんですか。あっ、ぜんざいですか。そうなんですか。あれに汁が加わるとお汁粉になるんですか。でもそれがぜんざいってものではないんですか。あっ、それは田舎しるこ? じゃあ、ぜんざいは? だから、汁がなかったらあんこでしょ。というくらい、難しいのです。皆さんもレトルトを買うときは注意しましょう。
はい、夢の途中さんは「ただのあんこ」を「ぜんざい」と呼ぶ派です。でも東京の人から見ると私は「田舎しるこ」を「ぜんざい」と呼ぶ人です。お互いに「ほっといてくれ」ですよね。甘味界における文明の衝突です。本当はどうでもいいことかもしれません。どうでもいいことといえば、このサイト全体がどうでもいいことばかりじゃないかと言われるかもしれません。墓穴掘ってます。
幼いころ善哉は漫才の大阪方言と思っておられたそうですが、幼いころで良かったですね。「最近まで」だったらエライことでっせ。
ところで夢の途中さんからは以前「焼酎のそばつゆ割り」を飲ませる立ち食いそば屋を教えてほしいとのメールをいただいて、このサイトでお知らせしました。無事発見された由、よろしゅうございました。でもあそこのそばは早々と売り切れるのではなくて、酒関係の仕事が忙しくてやってられないというので、夕方になると食券自販機の電源を切るんです。私が行ったとき、あのおばさんが電源を切り忘れたもので、そばの食券を持った人がどんどん入ってきて大混乱になっておりました。
「ぜんざい」「田舎しるこ」の歴史問題だが、ミルフォードさんから「ちょっと調べてみたところ、江戸時代の文献には既に『いなか汁粉』という言葉が見つかっているそうです。その中では、こしあんに粒の小豆をまぜたもののことを指していたようです」というメールをいただいている。
例によって『たべもの起源事典』を開いてみる。「善哉」という言葉の初出は何と室町期の『尺素往来』。応仁の乱より古かった。先週、紹介したメールにあった「神在(じんざい)が善哉になった」という話も出ている。「出雲では神在餅といい、日本の神々が出雲に集まると、アズキを煮て汁を多くし、餅を入れて供えたという」。「田舎汁粉」の屋台が現れたのは幕末の江戸。明治維新後には武士の商法による「汁粉屋」が東京に続々できたそうだ。
定義があって「田舎汁粉は粒あん、小倉汁粉は小倉あん、常磐(ときわ)汁粉はひき茶あん」。
「ぜんざい」の項を見ると、「関東では餅にアズキあんをかけたもの、関西では粒あんの田舎汁粉のこと」。
では「田舎」に「田舎汁粉」はあるのだろうか。逆に「都会汁粉」があったりして。
というわけで、どっちもないようです。でも全国に〇〇銀座があるくらいですから、「東京しるこ」くらいはどこかに生息しているかもしれません。
で、このメールを読んでいて「父が権力」「母に命じて」というフレーズが印象に残りました。私、このような家庭を知りません。「母が権力」「父に命じて」なら心当たりがないでもありません。
つぶあんこしあんおはぎにぼたもち。
そうそう、夏には「夜船」、冬には「北窓」と呼ぶとどこかで見た覚えがあるのですが、「ぼた餅」ですら廃れている今、そんな名称を実際に使っているのは見たことはありません。いまだに使われている方、いらっしゃるのでしょうか。とても風流で素敵だと思うのですが(鎌倉ROSEさん)
「註」が書けない。全然わからない。手元にある本にお菓子関係のものもない。言われてみると確かに名前と内容に規則性がないようだし、大混乱の印象は強い。ぜんざい・お汁粉も含め甘味界はカオス状態なのだろうか。大阪のお菓子屋さん、豊下製菓の豊下さん、助けてくださーい。
あんまんに粒あんが入っているとショックを受ける人がいることにショックを受けました。そーなんだー。
あーあ、テレジアさんのウチの人は下着までばらされちゃった。私も共犯ですけど。
今回のVOTE。最初は呼称としての「ぜんざい」「お汁粉」の分布を調べる。2番目でその内容を調べ呼称とシンクロしているかどうかを検証する。最後は「田舎しるこ」というメニューがごく限られた地域にしかなく、全国の田舎に住む人々、田舎出身者の怒りに包囲されていることを……調べようというわけではない。ただ「田舎しるこ」地帯がどの辺にあるのかを知りたいだけである。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
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