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“無添加”でも味を追求する

今でこそ無添加をうたうNB商品は数多くあるが、当時は種類が少なく、少量生産のため価格も課題だった。また、単純に食品添加物を抜いただけのものだと薄味でおいしくない。「安心」と「味」を両立させる商品がないのなら自分たちで作る。そこで健康をアピールした新しいPBを作ろうと美味安心のプロジェクトがスタートした。

商品開発は、協力してくれるメーカーを探す段階から苦労の連続だった。ようやく見つけ出しても、要望通りに食品添加物を抜いたものはやはりおいしくない。そこで素材の持ち味を引き出すことはもちろん、使う塩にこだわったり、だしなどの天然調味料を工夫したりすることで味を仕上げていったという。開発した商品はすべて三科社長が試食して最終チェックする。「もう430アイテム以上作ってきたので、素材本来が持つうまみを引き出すコツはだいたい分かってきた」と三科社長は胸を張る。

美味安心シリーズは430アイテム以上。最近では「アヒージョの素」「麻婆豆腐の素」など簡便調理の商品が売れている

いちやまマートの「強い独自商品」に育った美味安心は食品添加物以外にもその幅を広げている。近年のヒットが、日本でも約10年前から話題になっている「グルテンフリー」と呼ばれる小麦粉を使用しない食品だ(注1)。「自身で気づかないだけで、実はグルテン不耐症やグルテン過敏症という人は一定数いる。そうした人が食事をグルテンフリーに変えたところ快調になったという話も聞く」(三科社長)

グルテンフリー商品の中で特に人気なのが「こだわりの味 ハンバーグステーキ」だ。もともとは「グルテンアレルギーの孫においしいハンバーグを食べさせたい」という客のリクエストがきっかけで開発したもの。パン粉などのつなぎを使わずに作っているため、肉や玉ねぎそのものの味が前面に出て評判が良く、結果的に通常のハンバーグと同じくらい売れているという。糖質を約65%カットできるのも魅力だ。そのほか、グルテンフリーのカレーやクリームシチューのルー、米粉パンやパスタなど、さまざまな商品がラインアップされている。

グルテンフリーのハンバーグ。卵や小麦粉などのつなぎを一切使っていない
小麦粉を使用しないカレールーなどもある

美味安心と同じく、健康をテーマにした新しいコンセプトのPB「ナチュラル」も生まれた。「イメージとしては“オーガニックな魚や肉”。例えば、飼料に抗生物質などを使った魚や肉は多いが、そうしたものを極力使わないようにしたものをナチュラルブランドとして展開している」(三科社長)。牛肉や鶏肉、サーモン、タコなど、いちやまマートの食肉・魚売り場に並ぶ多くのパックにナチュラルのシールが貼られている。

ナチュラルブランドの「国産蒸したこぶつ生食用」はミョウバンを使用していない

移動販売や宅配で地域貢献

山梨県を中心に店舗を展開するいちやまマートだが、大きな課題は人口減だ。山梨県によると県内の人口は1999年の約89万人をピークに減少傾向が続いている。「人口減は一番の悩みだが、“買い物弱者”などをなくし地域に貢献するため、17年3月から移動販売も始めている」と三科社長は話す。移動スーパー「とくし丸」(徳島市)と連携し、4台の移動販売車を確保。山梨市や甲州市、韮崎市、諏訪市など、対象エリアを週に2回ずつ巡回している。

今後力を入れていこうと考えているのはネットスーパー事業だ。20年7月から一部店舗で試験導入しており、対象エリアであればスマートフォンやパソコンから注文した商品を月額638円で毎日届けることも可能。会員になれば、自宅に置ける配達用の商品保管庫を無料で設置するサービスもあり、不在時でも荷物を受け取れる。また、ペットボトルや缶、新聞紙などの資源ごみの無料回収も行う。「中国のネットスーパーを視察してその普及度に驚いたが、日本もいずれそうした時代が来る。最新のテクノロジーを取り入れながら、地域の人々の健康を守っていきたい」と三科社長は語る。今後はオンライン販売も拡充。店舗に行かなくても美味安心の商品を全国の人々が買える仕組みづくりも強化していくという。

22年は食品以外にも運動に注目する。まずは本部や店舗のスタッフを集めて体操教室などを開く予定だ。「新型コロナウイルス禍で、“健康な身体づくり”には食べ物だけでなく、実は運動も重要だということに改めて気づかされた」(三科社長)。将来的には、来店客を巻き込んで、体を動かす健康教室も開きたいという。

(注1)※グルテンフリー商品の一部は小麦を扱う作業場で製造しているため、小麦アレルギーの人などは注意が必要

(日経クロストレンド副編集長 佐々木淳之、写真 廣瀬貴礼、商品写真提供 いちやまマート)

[日経クロストレンド 2022年1月19日の記事を再構成]

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