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古いG-SHOCKの復元現場に潜入 なくなった部品も再現

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カシオ計算機が期間限定で実施した、腕時計G-SHOCKシリーズのレストアサービスが好調だった。対象は1983年に発売された初代G-SHOCK「DW-5000C」を含む8機種。1万560円(税込み。返却送料が別途必要)で傷や経年劣化で傷んだ外装やバンド、電池を交換した。受付期間は2021年10月5日~22年1月18日だったが、開始されるや否や申し込みが殺到。開始1週間で当初想定していた申込数に達したという。実際にどのようにレストア(復元)が行われたのか、現場を見せてもらった。

G-SHOCKシリーズは、耐衝撃機能や20気圧の防水性能といったタフ性能が特徴だ。初代モデルの「DW-5000C」はウレタンで全面をカバーし、内部モジュールを点で支えてケース内で浮かせる構造により、それを実現した。

しかし、いかにタフなG-SHOCKとはいえ、経年劣化は避けられない。手ごろな価格で日常的に身に着ける腕時計であり、ぶつけたり擦れたりして傷が付くことも多い。ウレタンが加水分解によりぼろぼろになることもある。

カシオ計算機によると、10年ほど前までの製品は通常の修理対応を行っているが、それより古くなると対応が難しいそうだ。コレクターアイテムとしても価値のあるG-SHOCKだけに、古い製品を直してほしいという要望は多い。しかし、当時の金型がなくて部品を作れないなどの理由から対応できないことがほとんど。レストアサービスは、そうした要望に応えるのが目的だ。申し込みは専用Webサイトから行い、レストアしてほしい製品を送る。レストアが終了すると、レストアサービス専用パッケージに入れられて戻ってくる。

レストア作業を行っているのは、カシオ計算機が販売するコンシューマー向け製品の修理を手がけるカシオテクノ サービス事業推進部 東日本リペアセンター。担当するのは、同社よりすぐりの熟練スタッフだ。

まずレストア前のサンプルとして、実際に送られてきたG-SHOCKを見せてもらった。ウレタン製のベゼルやバンドは傷だらけで、使い込んできた様子がうかがえる。シャープだったはずのエッジは丸くなり、表面はマットなはずなのに、長年の使用で擦れて一部にツヤが出ていたり、白っぽくなっていたりする。バンドにはゆがみも見られた。電池は切れているのでディスプレーには何も表示されていない。

次にレストア後のサンプルとして、実際に作業の終了したG-SHOCKを見せてもらった。当たり前だがベゼルやバンドには傷がなく、マットな仕上がりで新品にしか見えない。エッジも出ている。手にしてみても新品同様の手触りだ。電池も交換しているので、時刻をしっかり刻んでいる。ここまできれいによみがえれば、G-SHOCKを預けたユーザーも満足だろう。

レストアが終わったG-SHOCKは、レストアサービス専用パッケージに入ってユーザーの元に戻ってくる。パッケージには初代モデルの開発者である伊部菊雄氏のメッセージとサインが印刷されており、その隣にG-SHOCKを収めてディスプレーできるようになっている。専用パッケージを作ると聞いた伊部氏が「ぜひ、サインを入れさせてほしい」と申し出たそうだ。G-SHOCKファンなら、このパッケージだけでも手に入れたいと思うだろう。思い入れのある古いG-SHOCKをレストアして、再び使うもよし、専用パッケージと一緒に飾って楽しむもよしというサービスだ。

一番緊張するのは「蓋を開けるとき」

レストア作業にあたっているのは、カシオテクノ サービス事業推進部 東日本リペアセンター センター長の齋藤克弘氏と、多田稔氏。東日本リペアセンターの中でも経験豊富で高い技術を持つ2人だ。レストアは誰でもできる作業ではなく、2人のような熟練者でないと難しい。理由は「交換不可能な部品」があるからだ。

ベゼルやバンドなどの外装は新たに製造できるめどがついた。問題はそれ以外の部品だ。G-SHOCKの発売当時に製造協力していたメーカーがすでに廃業しているなどの理由で、壊れてしまうと新たに用意できない部品が多数ある。レストア作業中に誤って部品を傷付けたりしてしまったら、取り返しがつかないのだ。

「部品がないというリスクを背負っての作業になるので失敗できない。生きている(動いている)部品を壊してはならないので、作業は慎重になる。ここ(東日本リペアセンター)の作業員なら誰でもできるというわけではない」と齋藤氏。多田氏も「デジタル時計なので内部はアナログ時計より簡素だが、もう部品がないところが厳しい。万が一があってはならない」と声をそろえる。

また、発売当初のG-SHOCKは、現在のものと内部構造がかなり異なっている。そのため、現在のモデルを修理できるからといって、発売当初のモデルを修理できるわけではないそうだ。

サンプルとして用意された個体を使って、クリーンルームで行われるレストア作業の流れを見せてもらった。レストア作業の中で一番難しく緊張するのは、意外にも「裏の蓋を開けるとき」(多田氏)だそう。

ユーザーから送られてくるG-SHOCKの状態は一つ一つ異なる。中がどんな状態になっているのか分からないため、開けるときの衝撃などで、内部の部品を傷付けてしまう可能性があるのだ。「状態を確かめながら慎重に開けていく。がちがちに固着している個体もあり、開けるまでに1時間以上かかることもある。使用感のあるものは特に慎重になる」(多田氏)という。バンドも固着して取り外しにくくなっている場合があるとのこと。発売から数年の時計とは違い、相手はそれぞれ状態が異なる古い時計。想定外の事態の連続なのだ。

作業に使う道具は、時計を固定する台座や精密ドライバー、ピンセット、ルーペ、ブロワーなど。蓋を開けたら、電池を外して液漏れによる損傷がないか、電池の消耗度合いに関わる消費電流が正常かどうかなどを確認する。そしてモジュールと呼ぶ基盤を外す。時計には時刻合わせなどに使うボタンが付いているが、その押した感触に異常がないかどうかも確認する。

機能チェックと同時に、内部の清掃も行う。防水性能を維持するため密閉されているG-SHOCKだが、水などの侵入を防ぐパッキン部分にごみがたまりやすい。これまでの電池交換の際にごみが入ってしまっていることもある。中には、相当ごみがたまっていた個体もあるそうだ。防水用パッキンも製品によっては新たに調達できないことがあるため、ピンセットを駆使して慎重に作業を進めていく。

点検と清掃が終わったら新しい電池を入れ、時刻を合わせて動作を確認。確認できたら裏蓋をしっかり閉める。この際にも非常に気を使う。「時計では裏蓋が重要視されているので、傷を一切付けないように慎重に閉めていく」(多田氏)そうだ。続いて専用の機器を使い、防水検査や時計歩度(時計の時間精度を表す指標の1つ)のチェックを行う。それらの点検で故障が見つかった場合は、ユーザーに連絡をしてどう対処するかを相談し、可能な範囲で対応している。

今回の取材では撮影用にサンプルを使って作業してもらったが、実際のレストア作業にかかる時間は「蓋を開けるところから、チェックが終わって外装を取り付けるまで、すべてがスムーズに進んだとして最短で50分くらい。しかし、実際にはそんな短時間で終わるケースはほとんどない」(齋藤氏)とのこと。

齋藤氏と多田氏はいずれも12年ほど修理のキャリアがあるが、それでも初代G-SHOCKの修理はほとんど経験がなかったという。発売当時に修理を担当していた人もすでに社内にいないため、図面など当時の資料を探し出して作業の参考にしている。古い製品は資料が見つからないこともあり、かなり苦労するそうだ。

「技術力も重要だが、いかに傷を付けずに仕上げられるかにかかっている。お預かりしている時計はお客さまの大切な資産であり、もう部品が作れないとなると、お客さまにしっかり寄り添い、親身になって取り組むことが大切」と多田氏は心構えを語った。

部品調達と人材確保がカギ

カシオ計算機は、2018年にG-SHOCK誕生35周年企画の1つとしてレストアサービスを初めて行った。今回はその経験を踏まえ、明らかになった課題を解決した上でサービスを復活させた。

解決した課題の1つは、ベゼルやバンドといった交換用の部品作りだ。

ベゼルは簡易金型を製作した。さらにバンドは当時の金型をメンテナンス(オーバーホール)し、今回のサービスで使用する部品を作った。しかし古い製品では当時の金型が存在しないため、同じものを作ることができない。18年のレストアサービスでは、社内で保管している実際の製品からシリコン型を作り、そこにウレタン素材を充填して近赤外線で加熱して成型するという、光成型技術を用いて製造した。ウレタン素材をこの方法で成型するのは世界初だった。元は保守部品が少量必要なときにどう対応すればいいのかを検討していたのがきっかけ。そこからレストアサービスに企画が発展していったそうだ。

しかし、シリコン型は耐久性が問題だった。使用回数に限度があり、大量生産に向いていない。そのため、レストア希望者が殺到すると注文に対応しきれなくなる恐れがある。そこで簡易金型を採用して、前回と同レベルのパーツを、前回と同数以上用意できる体制を整えた。

カシオ計算機 羽村技術センター 技術本部 品質統轄部 品質企画部 品質開発室リーダーの難波和哉氏は、「前回は、我々が見込んでいた数以上の申し込みがあった。何とか対応できたが、我々が思っている以上に昔の製品を愛用してくださっている人が大勢いることが分かった。そこで今回は作り方を変え、簡易金型を使うことでパーツをたくさん用意できるようにした」と話す。

解決した課題の2つ目は、ユーザーベネフィットの提供だ。返送するときに、ただの段ボール箱に入れて送るのでは味気ない。そこで、今回はレストアサービス専用パッケージを用意。パッケージはそのままディスプレーできるように工夫した。

「前回は直すことばかりに集中して、お客さまが手元に戻ってきた後どうするのか、そこまで気が回っていなかった。お客さまの中には、届いた箱を開けるところから動画に撮ってSNS(交流サイト)にアップロードしたり、開封してから再び箱に入れて大事に保管したりしている方もいる。そこで、使わないときは飾っておける専用ケースを用意した」(難波氏)

そして3つ目は、状態の異なる個体への対応だ。ユーザーから送られてくるG-SHOCKの状態は千差万別。発売から年数がかなりたっているので、ずっと飾ったままのようなきれいな状態のものから、徹底的に使い込まれたものまである。状態を見極めてから作業をするため、作業時間を長くした。

「古い製品なので、通常の修理以上に丁寧に、慎重に作業しないといけない部分が多い。余裕を持って作業にあたるため、レストアにかける時間を前回より長くしている」(難波氏)

今回は、初代G-SHOCKなど「スクエアタイプ」と呼ばれるモデルを対象にした、期間限定でのサービス提供となっている。今後はスクエアタイプ以外のモデルのレストアや、期間限定ではなく通年でのサービス提供に期待したいところだ。「まだ期間限定だが、今回の経験も生かし、サービスを徐々に広げていきたい」と難波氏。ベゼルやバンドなど部品はある程度用意できるようになったが、"人"の問題も忘れてはならない。通常の修理作業もこなした上でのサービスなので、齋藤氏や多田氏のような熟練した作業員の確保が大変だという。

料金は前回と変わらず、必要な作業量にかかわらず1万560円(税込み。返却送料が別途必要)だ。これで思い出の詰まったかけがえのないG-SHOCKがよみがえるのなら、決して高い金額ではないだろう。「実は前回のレストアサービスは赤字だった。今回はそれを踏まえて体制を整えたので赤字ではないが、利益が出せるほどでもない」と難波氏は笑う。

恐らくカシオ計算機もこのサービスでもうけようとはあまり考えていないだろう。むしろ企業のイメージアップや、G-SHOCKファンとの継続的なつながりを築くことに大きな意義を見いだしているに違いない。「お客さまとつながっていくサービスを提供したいという思いがあり、今、何ができるのかを考えたとき、レストアサービスに思い至った」と難波氏。カシオ計算機のこうした姿勢が、長期にわたるG-SHOCKの人気を支えているのかもしれない。

(ライター 湯浅英夫、写真 酒井康治、写真提供 カシオ計算機)

[日経クロストレンド 2022年1月6日の記事を再構成]

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