風呂掃除で感染? 結核に似た症状の「肺MAC症」とは

この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)ヒトからヒトへ感染するケースが多い
(2)風呂掃除を日常的にしていると感染リスクが上がる
(3)やせている患者は体重を増やすと病気がよくなる可能性が高い
答えは次ページ
答えと解説
正解(肺MAC症の説明として間違っているもの)は、(1)ヒトからヒトへ感染するケースが多い です。肺MAC症はヒトからヒトへほとんど感染しません。
「肺MAC症」は、非結核性抗酸菌症の一種で、その約9割を占めています。日本では毎年、新たに約5000人以上が非結核性抗酸菌症を発病しており、その数は2007年から14年の7年間で2.6倍に達したという報告もあります。
非結核性抗酸菌は水辺や土のなかにいます。その非結核性抗酸菌が3万5000年前に突然変異を起こし、ヒトからヒトへと感染するようになったのが結核菌です。
非結核性抗酸菌はヒトからヒトへ感染することがないため、その存在は結核の陰に隠れていました。肺MAC症の治療に取り組んでいる複十字病院(東京都清瀬市)安全管理特任部長の尾形英雄さんは、「これまでの世界的な研究で、結核の感染率が低下すると、非結核性抗酸菌症の罹患(りかん)率が高まることが知られています」と解説します。
非結核性抗酸菌の多くは結核菌と比べて病原性は弱く、病気の進行はゆっくりで、感染してもしばらくは無症状のことが多いのが特徴です。肺MAC症でも10年以上という時間をかけて、ゆっくり肺や気管支で増殖し、慢性的な炎症を起こし、咳や痰が増えるといった症状が出るようになります。
症状が進行すると、持続的な発熱や全身のだるさ、食欲低下による体重減少が起こるようになります。さらに進行すると肺の機能が急速に低下し、自宅で酸素濃縮器を使った酸素の吸入が必要になるなど、命に関わる慢性呼吸不全になってしまいます。

尾形さんは「感染しやすいのは40歳以上の女性。しかも専業主婦が目立ちます」と話します。性差が生まれる原因については分かっていませんが、専門家は生活習慣も大きく関わっていると考えます。
例えば、重要な感染場所と考えられているのが浴室です。非結核性抗酸菌が湯船と給湯器の間のパイプのなかにバイオフィルムという塊を作ってすみ着き、湯船に流れ込むことが分かっています。
湯船につかるだけでは感染しにくいのですが、「浴室を掃除するとき、勢いよくシャワーで流すと、原因菌を含む残り湯が直径5μm以下の『エアロゾル』になって肺の奥深くまで吸い込まれ、感染してしまうのです」(尾形さん)。また土壌のなかにいる非結核性抗酸菌は、ガーデニングなどの際に感染すると考えられています。
家庭のなかで風呂掃除や庭の手入れなどを行う時間が多いのが女性であるため、感染数も多いと考えられます。
尾形さんは、肺MAC症にかかりやすい人の特徴として「生真面目でストレスが多い人。やせ形の人」という特徴も挙げています。実際、BMIが18.5未満の「やせ形」の人の発症リスクが高いという臨床報告があり、それは男性でも同じです。
こうした患者さんに多くの専門家が勧めるのは「体重を増やすこと」。食事時間の工夫、十分な栄養管理などを行い、体重を増やした人は、病気の予後がいいと尾形さんはアドバイスします。
[日経Gooday2021年10月11日付記事を再構成]
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