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SNSは脳の報酬システムを刺激するから依存してしまう?

――スマホを頻繁に手に取ることや、通知が来ていないか確かめたくなること、「いいね」がつくことで私たちはある種の承認欲求(認められたい、という欲求)を満たすことができる。この脳の報酬システムを刺激するゆえに、SNSにはアルコールや薬物と同じような中毒性がある、とみる意見もあります。

篠原さん アルコールや薬物などの「物質使用障害」が出ている人には、それを使用したときに快感ホルモンのドーパミンを放出する報酬系が働いている、ここまでは事実です。

アルコールにおいてもギャンブルにおいてもゲームにおいても、共通して報酬系が動いている。だからやっぱり危ないね、スマホも同じだね、という話になりがちですね。

一方、脳科学の歴史をひもとくと、報酬系は「やる気」の研究として長年研究されてきました。

そして、1998年に英国ケンブリッジ大学のシュルツらは、サルの研究において、「ドーパミンニューロンは報酬そのものではなく、報酬を予期させるようなときや予想外、あるいは期待以上の報酬が得られたときに反応している」ことを明らかにしました。仕事や学習において、やる気が起こるのはそれによるご褒美が期待できるときで、そのときにはドーパミンがぐんぐん分泌されています。

つまり、スマホを使うことを取り沙汰する以前に、人間にとってドーパミンはやる気・モチベーションの基本システムそのものであり、ケーキを食べようとしても活性化します。すなわち、生きるうえで役立つと思えるときや、楽しいときに脳は活性化するようにできている。なのに、「スマホはドーパミン系を刺激するから危ない」、というのは過大評価と言えるでしょう。

――アルコールや薬物への「物質依存」と、ゲームやギャンブルなどの「行動依存」とは体への影響が異なるのですか。

篠原さん そこも重要なポイントです。薬物使用とギャンブリング障害における脳の状態を見た研究があります。脳の神経細胞が集まる「灰白質」や神経の受容体の変化は、薬物とギャンブルでは明らかに異なり、薬物使用では明らかだったがギャンブルではわずかだったと報告されています[注1]。両者のメカニズムの違いについてはまだ明らかになっていないことばかりです。よく「アルコールも薬物もギャンブルも、物質や行動によって快楽が得られ、繰り返されることによって脳がその刺激に慣れてしまう。だから、より強い刺激を求めるようになる。その結果、物質使用や行動がコントロールできなくなってしまう」と一緒くたにされるのですが、医学的には間違いです。おそらくアルコールや薬物のほうが体に与える影響は大きいでしょう。

――スマホはアルコールのように依存性がある、それは快楽を刺激するからだ、と言われるとすんなり納得してしまっていました。

篠原さん もちろん、のべつ幕なしにスマホを手に取りたくなるのは、依存的であるリスクの一つとは言えるでしょう。しかし、そこまでとらわれてしまう要因も示さないと、ただ怖がらせるだけでは議論にはなりません。

――スマホにはまってしまう要因はあるのですか?

篠原さん 物質依存や行動依存の背景になる素因は研究されています。不安傾向が強い人、抑うつ傾向が強い人、衝動性が強い人。また、発達障害的傾向のある人も何らかの行動にはまりやすい傾向があるとされています。

[注1]Mol Psychiatry. 2019 May;24(5):674-693.

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「報酬系」は移動する生き物に共通して備わる仕組み