詐欺になぜだまされる 脳の構造と対策、専門家が解説脳科学者に聞く「脳」の活性化術

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日経Gooday(グッデイ)

誰でも年齢を重ねると記憶力が低下したり、素早い判断ができなくなってきたりするもの。脳の活動が低下しているのではないかと不安になっているときに、ちまたで横行するオレオレ詐欺や還付金詐欺などの「特殊詐欺」の話を聞くと、なぜそんなことになるの? どうしてだまされるのか信じられないと思う人も少なくないだろう。年を取って脳が老化すると、本当にだまされやすくなるのだろうか。公立諏訪東京理科大学工学部教授で脳科学者の篠原菊紀さんに聞いた。

年齢は関係ない? だまされるときの脳の仕組みとは

――今回は「だまされやすさ」について教えてください。ニュースなどで特殊詐欺の被害に遭った人のエピソードに接すると「ええっ、どうして疑わなかったの?」と思う一方、「いや、自分だってその場になればどうなるかわからない」と不安になったりもします。

年齢とともに脳の判断力も衰えてくるわけですから、やはりだまされやすくなってしまうものなのでしょうか。

篠原さん まず、脳の特性から考えると、高齢者であることを抜きにしても、「そもそも人の脳は、複数のことを同時並行処理できない」ということが前提となります。

人を人たらしめているのは脳の「前頭前野」という部分。知覚・言語・思考など知性をつかさどる部分です。

前頭前野は、脳の別の場所に格納されている記憶や情報を意識に上げてきて、何かのミッションがあるとそのたびあれこれ検討します。この機能があるからこそ、人類はどんな状況に置かれても柔軟に適応し、あらゆる環境下で生き抜いてきました。

このように優れた働きをする前頭前野ですが、ここはコンピューターのキャッシュメモリのように必要な情報を一時的に保存して情報処理をするところ。実は、その性能には限界があるのです。

前頭前野のメモリのことを「ワーキングメモリ」と言います。訳すると、作業記憶。ちょっと前にしていた作業を記憶し、再び必要になったときに取り出すというもの。私はこれを「脳のメモ帳」と呼んでいます。このメモ帳の枚数は、年齢とは関係なく、誰もが3~4枚しか持っていません。私たちは、「あれ」「これ」「それ」くらいしか同時に処理できないのです。

ですから、いくつもの情報をどんどん入れられ、その全部が重要だ、と言われてしまうと脳のメモ帳では処理が追いつかなくなるのが当たり前です。

――ああ、特殊詐欺の加害者はその脳の仕組みをまさに利用しているわけですね。

篠原さん そう。ある人がこう言い、次に違う人から電話がかかってきてこう言い、指示される…と、情報過多にして、脳のメモ帳を使い切らせる状態を意図的に作っているのです。

詐欺の手口を考えてみてください。どれも、「大変な一大事」というインパクトの強い情報をぎゅっと詰め込みます。

・孫や息子が事故や事件を起こした。だから、示談金が大至急必要(オレオレ詐欺)
・あなたの口座が犯罪に利用されている。だからすぐにキャッシュカードを交換しないと危ない(預貯金詐欺)
・未払いの料金があるという架空の事実を口実にし、金銭を脅し取る、だまし取る(架空料金請求詐欺)

失恋をしたときだって、仕事が手につかなくなります。悲しみや後悔、その人と思い描いていた未来が失われるという喪失感。脳のメモ帳はあっという間に4枚のうち3枚が使い切られてしまう。脳の余裕がなくなってしまいます。

だから、特殊詐欺の加害者は「ストレスフルな情報や人をたくさん入れる」ことで一気に圧をかけてくる。高齢であろうとなかろうと、このテクニックのもとでやられると、人は普段通りに思考できなくなり、稚拙な判断しかできなくなります。

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不安をあおられても、うれしいときも、だまされやすく
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