新たなやる気に満ちて 舞台に立つ喜び(井上芳雄)第111回

日経エンタテインメント!

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井上芳雄です。3月18日から世田谷パブリックシアターでシス・カンパニー公演『奇蹟 miracle one-way ticket』の舞台が開幕しました。本来は3月12日が初日の予定だったのですが、僕の新型コロナウイルス感染に伴って初日が延期になり、多くの皆様にご心配とご迷惑をおかけしてしまいました。たくさんの励ましのメッセージをいただき、本当にありがとうございました。今は体調は良好で、新たなやる気に満ちています。ようやく初日を迎えることができ、再び舞台に立てた喜びを噛みしめながら、また全力でがんばりたいと思います。

シス・カンパニー公演『奇蹟 miracle one-way ticket』は4月10日まで世田谷パブリックシアターで上演中。4月13~17日まで大阪・森ノ宮ピロティホールで上演(撮影:宮川舞子)

新型コロナの感染が確認されたのは2月下旬でした。のどに違和感があって、少し熱が出始めたので、すぐにPCR検査をしたところ、やはり陽性でした。ちょうどロシアがウクライナに侵攻を始めたころで、世界のことも心配だし、自分の体調も悪くなってきて、暗たんたる気持ちになりました。その後、2日間くらい熱が出て、体の節々が痛かったりしたのですが、3日目くらいから平熱に戻り、のどの痛みや鼻詰まりが徐々に治ってくるという感じでした。僕の場合は、軽い症状だったようです。

自分の体調もつらかったけど、一番心苦しかったのは主演する舞台『奇蹟 miracle one-way ticket』の3月12~17日の公演が中止になり、初日が3月18日に延期になったこと。制作会社のシス・カンパニーからは開演に向けて十分な稽古期間を確保するために延期を決めたと伝えられ、役者としては稽古ができるのはありがたいことですが、当事者としては経済的にもスケジュール的にもいろいろな方にご迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

そんななか、とてもありがたかったのが、たくさんの励ましの言葉をいただいたことです。ファンの皆様からは「コロナ禍のなかでずっと止まらずに走り続けてくれて、励まされてきたので、今回はゆっくり休んでくださいね」といった優しく、温かいメッセージがたくさん届きました。うれしかったです。僕は、自分が俳優や歌手としてやりたいと思うことをやってきたのですが、それを受け取ってくださる方との間で、持ちつ持たれつのような関係になれていたのなら、とても幸せなことだと思います。

そして、当たり前のことではありますが、健康や生命が一番大事なのだとあらためて感じました。理屈じゃなくて本能的に。これからまた忙しくなってくるでしょうが、優先順位ということでは、自分や家族や周りの人たちの健康や生活が大切なんだなと。

療養中は、オンラインで稽古の様子を見たり、今までこんなにまじめに台本を読んだことがないというくらい読み込んだりして、カンパニーに戻ったときに少しでも皆さんに迷惑をかけないように準備していました。そうやっていると、すごくお芝居がしたくなって、早く元に戻りたい、セリフを言いたい、歌ってみたいという気持ちがふつふつと湧き上がってきます。この数年間のコロナ禍でも、僕は比較的ずっと表現をし続けてきて、どこかギリギリの状態でやり続けていたのですが、今回いったん止まってリセットしたことで、また表現を始められる喜びを強く感じられた気がします。

稽古場には3月6日から復帰しました。普通に動けましたが、最初のころは前よりちょっと疲れやすい気もしたし、完全に元通りかといわれると、初めてのことだから自分の体がどうなっているのかはっきり分からないところもありました。よくいわれていることですが、ただの風邪じゃないみたいな感じでした。まだ未知のウイルスではあるので、これからも体調には気をつけていきたいと思っています。

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答えが出たから面白くなるとも限らない