高森特任教授は「つい最近まで、かゆみを引き起こす物質はヒスタミンが中心だと考えられており、かゆみを訴える患者には抗ヒスタミン薬が漫然と投与されてきた」と指摘する。しかし、じんましんなど抗ヒスタミン薬がよく効くかゆみもあるが、まったく効かないかゆみもある。アトピー性皮膚炎のかゆみはその代表で身近な乾燥肌によるかゆみもその一つだ。

抗ヒスタミン薬で効かないかゆみに効く薬を見つけ出す方法はC線維の受容体に結合する物質の探査だ。これまでに約30種類の物質が見つかっており、その受容体をターゲットとした医薬品の開発も進められている。

そして、もう一つのアプローチとして高森特任教授らの研究グループが解明したのは、皮膚のバリア機能の低下が強いかゆみをもたらすメカニズムだ。

皮膚のバリア機能の障害がかゆみの悪循環をもたらす

皮膚の表面にある角層では、角質細胞がしっかりと組まれたレンガの塀のように積み重なり、角質細胞の隙間はセラミドを中心とした脂質で埋められている。この角層の構造が外界の刺激から体を守ったり、体内の水分が外へ出るのを防いだりするバリアとなり、皮膚を乾燥から守っている。しかし、加齢など何らかの理由でレンガ同士をつないでいる脂質が減少すると、細胞と細胞の間に隙間ができるためバリア機能が低下。皮膚の水分が失われて乾燥肌になるとともに、外界の刺激や異物が侵入しやすくなる。

角層を構成する角質細胞の隙間はセラミドを中心とした脂質で埋められているが、何らかの理由でレンガ同士をつなぐ脂質が減少すると、細胞と細胞の間に隙間ができるためバリア機能が低下する。(画像提供=高森特任教授)

高森特任教授らは、アトピー性皮膚炎のモデル動物の実験により、乾燥肌になると、もともと表皮と真皮の境界部にとどまっていたかゆみを伝えるC線維が表皮の角層あたり、つまり体の表面近くまで伸びてくることを発見した。

高森特任教授によると、C線維の長さは、「伸びろ」という信号を送る神経伸長因子(NGF)と「伸びるな」という信号を送る神経反発因子(セマフォリン3A)のバランスで制御されているという。「通常は表皮のケラチノサイト(表皮角化細胞)という細胞がセマフォリン3Aを作り出し、C線維が伸びすぎないようにコントロールしているが、バリア機能が障害を受けるとその機能が低下しC線維が伸びてしまう」(高森特任教授)という。

図2 乾燥肌になると、なぜC線維が伸びるの?

かゆみを伝えるC線維は通常は表皮と真皮の境界部近くにとどまっているが、乾燥肌になると、体の表面近くまで伸びてくる。これにより、乾燥肌の人はわずかな刺激でもかゆみを感じるようになる。

C線維が伸びると、乾燥肌の人はわずかな刺激でもかゆみを感じるようになり、肌をかく。するとバリア機能はより障害されC線維がさらに伸びてしまう「かゆみの悪循環」をもたらすという。

次のページ
悪循環が進む前からの保湿ケアがお勧め