心臓が原因で起こる「脳梗塞」 若者も無縁ではない
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)心房細動が原因で起こる脳梗塞は、若者も無縁ではない
(2)心房細動が原因で起こる脳梗塞は、重篤な後遺症を残すことが多い
(3)年1回の心電図検査が正常であれば、心臓は問題ない
(4)心房細動があっても、動悸(どうき)などの症状があるとは限らない
答えは次ページ
答えと解説
正解(心房細動や、それが原因で起きる脳梗塞について間違った記述)は、(3)年1回の心電図検査が正常であれば、心臓は問題ない です。
脳の血管に突然、血の塊(血栓)が詰まり、命を奪ったり、様々な後遺症につながったりする病気。それが脳梗塞です。
脳梗塞のリスクを減らすにはどうしたらいいのかについて、慶應義塾大学医学部内科学教室循環器内科の木村雄弘専任講師は「不整脈の一つである心房細動は、脳梗塞のリスクを5倍にするともいわれており、取り返しのつかない脳梗塞を起こしてしまう前に見つけることが重要です」と解説します。
心臓は心房と心室が交互に収縮することで血液をスムーズに送り出すことができます。心臓の収縮は洞結節と呼ばれる部分から発せられる電気信号で調節されていますが、心房細動の患者では別の場所から乱れた電気信号が生じ、その結果、心房がぷるぷると小刻みに収縮するようになります。それが直接命に関わることは少ないのですが、血液の流れに「よどみ」ができて血栓ができ、それが脳の血管に詰まってしまうことがあります。これが脳梗塞です。
心房細動は脳梗塞(心原性脳塞栓症)の原因に
木村専任講師は「脳梗塞は高齢者の病気というイメージが強いと思います。確かに、動脈硬化が原因の脳梗塞の場合はそうなのですが、心臓が原因で起こる脳梗塞は、若年者にも起こります。また、血栓が脳の太い血管を詰まらせてしまうため、脳梗塞のサイズが大きく、命に関わったり手足の麻痺(まひ)を残したりなど、重篤な後遺症を残すことが多いのが特徴です。また、再発しやすいのも特徴で、動脈硬化が原因で起こる脳梗塞と比較して注意が必要です」と警鐘を鳴らします。
症状の出方は様々で、約半数は無症状
脳梗塞の前に心房細動が診断できれば、患者の状態により、脳梗塞リスクを減らす薬物治療を行ったり、後述するカテーテルアブレーション(心房細動を起こす電気の発生源を血管内に挿入したカテーテルで焼く治療法)という根治治療を行ったりすることもできます。
問題は、心房細動を診断することは難しい、ということです。一体なぜでしょう。
診断は病院の心電図で行いますが、診断のためには、心臓に異常があるときに記録ができなければいけません。心房細動は発作的に起きるので、それを1年に1回の定期健診のわずか数十秒の測定で見つけることはまず難しいのです。
「心電図は長く記録すればするほど病気の検出感度は高まる」(木村専任講師)ことから、医療機関では24時間継続して心電図測定をする「ホルター心電図検査」が一般的に行われますが、それでも頻度の少ない発作を見つけることはなかなかできません。
心房細動では症状の感じ方に個人差があることも問題です。「胸がもやもやする」「バクバクする」といった症状から「喉が詰まる感じ」という人もいますが、症状が全く出ない人もいます。実際、約半数の人は無症状だといわれています。
治療はどう行われる?
治療には医学的専門的検査の結果に基づいた医師の診断が必要です。そして心房細動の発作頻度、年齢、心臓の状態などを見極めて薬物治療、カテーテル治療など最適な治療を行います。
薬物治療でまず用いられるのは血液をサラサラにする薬。かつてはワルファリンという薬しかなく、効果を採血でコントロールする必要がありました。現在では「直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)」が登場。血液のサラサラ具合の調整をせずに服薬を続けられるようになりました。このほか不整脈を抑制する薬が使われることもあります。
問題は、薬物治療では、心房細動が原因の脳梗塞のリスクを3分の1程度にしかできないことです。木村専任講師は「血液をサラサラにする抗凝固療法は、脳梗塞を100%予防するものではありませんし、出血のリスクも高めてしまうので、薬を飲んでいれば安心というわけではありません。また、心房細動が持続する時間が長くなると、心臓が拡大してポンプとしての機能が低下し、心不全のリスクも高まってしまいます」と解説します。
最近では、それを防ぐために、適切な時期に前述のカテーテルアブレーションを行うことが勧められています。これは太ももの血管からカテーテルを挿入、心臓の中で心房細動の原因となる乱れた電気信号を出している領域を焼くことで心房細動を根治するというものです。また、最近では脳梗塞の原因となる、心臓の血液のよどみができやすい部分にフタをして、血液をサラサラにする薬の代わりにするような新たなカテーテル治療も登場。より患者の負担の小さな治療が目指されています。
[日経Gooday2021年12月27日付記事を再構成]
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