日経エンタテインメント!

海外ロケがままならない現在、Netflixで配信中の今年の大ヒット作『ヴィンチェンツォ』では、CGを使って、あたかもイタリアで大規模なロケをしたような世界観を完璧に作り出している。こちらも、制作費200億ウォン(約19億円)と言われる超大作だ。

「制作費を潤沢に使える環境のもと、作品のスケールもどんどん大きくなり、様々な要素が詰め込まれたラブストーリーが増えました。『シンプルなラブコメかな?』と思って見始めると、急にサスペンス色が濃くなり、生きるか死ぬかのストーリーにまで話が広がったり。ここ数年で、そんなエンタテインメント性の高いラブストーリーが数多く作られるようになっています」

決して韓国ドラマのすべてが多額の予算で制作を行えているわけではないが、「世界での韓国ドラマ人気を背景に、スポンサーがつきやすい状況にはあるでしょう」

TREND 2:新しいヒロイン像の誕生

韓国では、受験戦争や将来の見えない若者たちなど、社会的なテーマをいち早くドラマに取り入れてきた。その中で今は、女性の地位向上も大きなテーマ。新しい時代の女性像をラブストーリーのなかに組み込むことにも積極的だ。

かつて韓国ドラマのヒロインといえば、「お金も家柄も学歴もない薄幸の美人で、わがままな財閥御曹司が彼女を見初め、女性として、人間として成長していく」というのが王道だった。

ところが近年は、社会的にも自立し、自身で道を切り開くヒロイン像に変わってきた。例えば、『愛の不時着』のユン・セリはアパレルや化粧品を展開する会社を自ら立ち上げた実業家(財閥令嬢ではあるが)。『梨泰院クラス』のチョ・イソはフォロワー70万人を超える有名インフルエンサーであり、確かな分析力やマーケティング能力を買われて、主人公パク・セロイが経営する居酒屋「タンバム」のマネージャーに就任した。『サイコだけど大丈夫』(20年)のヒロインであるコ・ムニョンは人気児童文学作家だ。

強く、しなやかに自分の人生を自分の責任で生き抜き、愛する人を自ら守る力を持ち、相手を幸せにしようと努力する。そんな新しい時代の新ヒロインたちが、日本の女性視聴者の共感を集めている。

TREND 3:“ドロドロ”の新潮流

韓国ドラマが日本で初めてブームとなった『冬のソナタ』の頃のラブストーリーには、「交通事故」「記憶喪失」「出生の秘密」などのドラマチックな要素が必ずと言っていいほど含まれていた。かつて“お約束”であったこれらの事柄は、今、「新たなスパイスとなって、作品に使われています。ただ、その要素そのものがストーリーの軸ではなく、何かを引き出すために程よい強度で生かす形に変わりました」。

例えば、『私たち、家族です~My Unfamiliar Family~』(20年)は、山で遭難した父親が、22歳の記憶のままの状態で戻ってくる設定。そこから家族それぞれが抱える秘密や悩みが明るみになっていく。青年の心を持つ父親が、再び母に恋をするというラブストーリーも美しい。

※文中のドラマ・映画の放送年は一部を除いて韓国での年

(ライター 田名部知子)

[日経エンタテインメント! 2021年9月号の記事を再構成]