ほかにも例えば、相手の目をめちゃくちゃ見たり、とにかく速くしゃべってみたり、あるいはゆっくりしゃべってみたり。毎日同じことを繰り返しているからこそ、変えると違いが分かって面白いという発見もあると思います。こうしたときに相手の反応が違うんだとか、身体が楽に動けたとか、感情が動いたとか、毎日が研究ですね。ちょっとずつ変えてみて、その成果が日々出て、それを生かしてまた次の研究に向かうみたいな。それが積み重なることで、公演の回数を重ねる意味も出てくるんじゃないかと思います。
舞台が始まるまでの気持ちの持っていき方
開演の前にルーティーンでやっていることは、僕はあまりないのですけど、空き時間ができないようにはしています。開演時間から逆算して、楽屋にはぎりぎりに入ります。1時間半前くらいに入るのですが、楽屋でぼーっとする時間は必要なくて、すぐに着替えて、ストレッチをして、発声練習をしたりして、開演何分前になったらメークをして、かつらを着けて、衣装を着てと、やることをだいたい決めておいて、それを着々とこなす感じです。逆に、早く終わってしまって暇だ、となった方が落ち着かなくなって困ります。公演が終わった後も、すぐに楽屋を出るようにしています。ちなみに共演している堂本光一君はずっと楽屋にいるのが好きなタイプです。きっと楽屋でゆっくり過ごすことで、リラックスできたり集中力を高められたりするのでしょう。
そんなふうに、人によって舞台が始まるまでの気持ちの持っていき方はそれぞれ。直前まで誰ともしゃべらない人もいるし、逆にしゃべりまくっている人もいます。ぎりぎりまで本を読むなど違うことをしていて、舞台に出たらぱっと切り替わる人もいます。モチベーションを保つ秘訣やルーティーンはそれぞれにあると思うのですが、俳優同士で分かち合うものでもなくて、俳優の数だけやり方があるのが面白いところです。
自分の体と心に合ったやり方を自分で見つけなければいけなくて、僕はそういう作業が好きだし、それはとりもなおさず俳優の仕事が好きということなんだなと。『ナイツ・テイル』で久しぶりに長期公演を経験してみて、あらためて感じたことです。

(日経BP/2970円・税込み)

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第104回は11月20日(土)の予定です。