三菱電機の冷蔵庫 20代向けのデザインは何が違う?
三菱電機の高級トースター「三菱ブレッドオーブン(TO-ST1-T)」と、20代以下の若者向けを狙って開発した小型冷蔵庫の「MR-Pシリーズ」。いずれも商品を通じて、新しい食生活や調理を体験できるようにした。
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「三菱ブレッドオーブン(TO-ST1-T)」の発売は2019年。価格が3万円以上の商品だが、計画を上回る販売数を見せているという。目指したのは、パン焼き窯から取り出した「焼きたて食パン」のおいしさだ。1枚しか焼けないが、独自の密封断熱構造やプレート加熱方式で食パン内の水分と香りを逃さず調理でき、焼きたて食パンのように耳まで軟らかな食感と素材の香りを味わえるようにした。
従来のトースターのようにキッチンに置くのではなく、ダイニングテーブル上で使い、焼きたてをすぐに味わえるスタイルを提案。そのため本体の形状をコンパクトにして、ダイニング空間になじみやすい素材感を追求したという。
おいしいトーストとは何か
開発がスタートしたのは16年ごろだが、企画は13年ぐらいからあった。開発チームは「本当においしいトーストとは何か」を起点として発想を広げ、ユーザー調査やヒアリングを重ねたほか、他社製品や自社の試作品で焼いたトーストを何度も試食した。従来のトースターでは香りは弱まり、食感は別物になってしまうため、「なぜトーストするのか?」「最も食パンをおいしく味わう方法として従来のトーストが正しいのか?」などと考えていった。結果、今までのトースターでは実現できなかった「焼きたて食パンのおいしさ」を目標にプロジェクトを進めた。
デザイン面でも試行錯誤があった。当初はフロントローディングのように前方から食パンを出し入れする方式も考えていたが、香りを閉じ込めて焼くため密閉構造にする必要があった。蓋を開ける取っ手は正面に付けていたが、蒸気を逃がすために、蓋の左右に置くデザインに変えた。当初は食パンを焼く用途に絞っていたが、チーズをのせたりフレンチトーストも焼けるようにした。レシピの幅が広がると食生活が豊かになるためだが、そうなると蓋が大きくなり、全体の高さも変わってしまう。外観のイメージが異なるため、デザインも修正していき、現在の姿に行き着いた。
「焼きたてのパンに近づけようという方針は変わらなかった。1枚のおいしい食パンと、じっくり向き合うといった新しい食生活を提案したい」(三菱電機統合デザイン研究所ライフクリエーションデザイン部生活機器システムデザイン第2グループの安田倫子氏)
天板部分を作業スペースに
小型冷蔵庫の「MR-Pシリーズ」の開発に当たっては、1人暮らしの20代に自炊に関するヒアリングを実施した。結果、自炊を希望しているにもかかわらず、キッチンが非常に狭く、調理の作業スペースが十分ではないことが分かった。そこで調理の作業スペースの拡充を目指すため、冷蔵庫の天板部分を広くして調理の作業スペースにするように従来の冷蔵庫のデザインを見直した。
20代に聞くと、冷蔵庫や電子レンジから出した物を一時的に冷蔵庫の天板部分に置いたり、冷蔵庫から出した飲料を天板部分に置いたグラスに注いで使用したりする例も多かったという。ただし従来の天板部分は狭く、冷蔵庫の扉部分との隙間があると物を置くには不安定。誤って扉を開けると物が落下してしまう危険性があった。
今回、考案した天板部分は、扉の上部まで覆うようにした。天板部分の一部に鉄板を内蔵して強化を図り、天板部分はできるだけフラットにしている。狭い部屋に設置しても圧迫感を与えないように、外観はラウンド形状を多用した。
「振動を小さくする素材を採用し、運転音も抑えた。狭い住環境でも快適に過ごせるようにさまざまな部分に配慮している」(同ライフクリエーションデザイン部生活機器システムデザイン第1グループの松本麻衣氏)
色はマットチャコールとマットホワイトにした。シルバーや黒などは、木材の家具などを置いた1人暮らしの部屋とは合わないと判断したからだ。1人暮らしの20代の生活に寄り添う冷蔵庫といえるだろう。
(日経クロストレンド 大山繁樹、写真 丸毛透)
[日経クロストレンド 2022年1月27日の記事を再構成]
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