日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/11/17

「このウマの頭数もあっという間に増え、それまでユーラシア大陸に生息していたすべての系統のウマに取って代わりました」。現代のウマは「いわば勝利者で、今では、どこでも目にすることができます。他の系統は敗れてしまったのです」とオーランド氏は話している。

乗馬や、家畜化から数百年後に普及したチャリオット(ウマが引く戦車)が社会の力関係に変化をもたらし、この新しいウマの普及に拍車をかけたとみられる。

優れたウマを求めて

ウマの家畜化自体は、約5000年前から4200年前の青銅器時代のヨーロッパやアジアですでに始まっていたようだ。そもそもウマは、始新世(約5600万年前~)から北米大陸の草原に生息していた小形の草食動物から進化したと考えられており、始新世(約260万年前~)の氷河期になるとベーリング陸橋を渡ってユーラシア大陸にも広がった。

考古学や歴史の記録によると、4200年ほど前に、突然、ウマの個体数がユーラシア大陸全体で急増したことが示されている。ただ、その理由は分かっていない。気候変動の影響で草原地帯が広がり、ウマの生息地も拡大したのだろうか? それとも世界各地で、人々がウマを同時に繁殖させたのだろうか? そもそもウマは共通のルーツを持っているのだろうか?

ここ10年ほどの間に、骨や毛など保存された遺物から古代のDNAを再現する技術が進歩し、ようやく、先ほど挙げたような疑問を解くことが可能になった。

まずオーランド氏や考古学者の国際チームは、博物館や遺跡を徹底的に探し回って資料を集め、ヨーロッパと中央アジアで発見されたウマの遺骸273頭の遺伝子情報を得た。そして、時代や場所が異なる家畜ウマの遺伝子情報を比較して、ウマの遺伝子プールがいつどこで進化したかをマッピングした。

こうして作られた遺伝子地図から、約5000年前の家畜ウマは多様性に富んでいたことが分かった。だが、人間が病気に強く、従順で、人を背に乗せられることを重視して交配するようになった。こうして多様性は失われ、私たちがよく知るウマが誕生した。

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人とウマの歴史