AIで消える事務 日本女性の失業リスク高く

科学技術が進歩し、人が担ってきた仕事をロボットや情報機器がこなすようになれば就労環境は変化を強いられる。国際通貨基金(IMF)は今後約20年間で日本人女性の14.3%が技術的失業リスクにさらされると推計する。男性4.2%の3.4倍だ。日本では事務職など定型業務に就く女性が多い。これらがAIなどに代替される結果、世界の中でも女性の失職リスクが極めて高い。

顧客情報管理(CRM)ツール大手のセールスフォース・ドットコムとデロイトトーマツコンサルティングはDX(デジタルトランスフォーメーション)人材育成プログラム「パスファインダー」を8月に開講した。セールスフォース製品の顧客をサポートするIT人材を育成し、修了後は就労支援も行う。受講生100人の7割が女性で、多くがIT以外の業種からのキャリアチェンジ希望者だ。

「パスファインダー」をオンライン受講する角田佳美さん。家族が寝静まった深夜帯が勉強タイムだ。

兵庫県の角田佳美さん(41)もその一人。大学卒業後メーカーに勤めたが、子育てに夫の転勤などが重なり、退社した。「末っ子は来春小学校に上がる。子どもの手が離れたとき、どんな仕事なら活躍の余地があるかを考えて、今のうちにITスキルをきちんと身につけようと思った」

講義はオンラインで、クラウドの仕組みやCRMの技術スキル等を学び、顧客の利用環境に合わせてセールスフォース社の製品をセットアップ・調整できるレベルを目指す。修了まで20週、計150時間前後の学習が必要だ。予習復習も不可欠で決して楽ではない。

ただ初心者であっても集中的に学べば、セールスフォースの顧客企業が採用したいと求めるレベルまで達することは可能だという。セールスフォース・ドットコムのパートナーエコシステム推進部・原田考多部長は「IT業界は圧倒的な人材不足にもかかわらず、女性比率が低い。でも見方を変えればそれだけ女性が活躍できる余地がある」と女性に期待する。

新型コロナウイルスの感染も徐々に減り、労働需給状況には改善の気配がみえる。ただ9月の有効求人倍率を職種別でみると、事務的職業(常用、パート含む)は0・36倍。求職者3人に1件の求人との狭き門だ。

三菱総合研究所の山藤昌志主席研究員は「コロナ下で企業はDXを加速している。そのために労働需給の変化が前倒しされる可能性がある」と指摘する。山藤氏の試算では24年に事務職156万人が余剰になるという。対してITを含む専門技術人材は30年に162万人が不足する。「自分のスキルを棚卸しし、今の知識や能力を生かして一歩ずつ小刻みなリスキリングを継続することが失職リスクを下げる」と助言する。

一歩踏み出す勇気を
 ITと聞くだけでハードルが高いと感じる人も多い。ただ、IT領域の仕事も難易度は様々だ。人材会社ワリス(東京)は11月に就業支援付きITリスキリング講座「Webマ+(プラス)広告運用講座」をIT企業アンドデジタル(東京)と共同で始めた。ターゲットは育児や夫の転勤などで離職中の女性だ。検索サイトGoogleの広告管理ツールを利用して、ウェブ広告を出稿できるレベルを目指す。

 「IT企業なら新入社員が担う初歩的業務。それでも人手不足が顕著で、特に地方企業や中小企業の引き合いは多い」(広報担当)という。そもそもIT業界自体が成長途上だ。まずは身を置くことが大切で、会社の成長に合わせて能力を磨いていけば活躍領域は自然と広がる。一歩踏み出す勇気が新たなキャリアを切り開く。
(編集委員 石塚由紀夫)

[日本経済新聞朝刊2021年11月29日付]