絶版しない出版社の原点 コンサルから家業に転じ挫折英治出版社長 原田英治氏(上)

原田英治・英治出版社長は「僕自身はあまり本を読まない」とらしからぬことを言う

『イシューからはじめよ』『ティール組織』などビジネスバーソン必読の書を数多く出している英治出版は、一風変わった出版社だ。創業者で代表取締役の原田英治氏(55)はコンサルタント出身。現在、社員はわずか12人で、新卒以外は全員異業種からの転職組だ。同社の創業から現在に至る道筋はいわゆる「出版不況」と重なるが、厳しい環境下でも着実に存在感を増してきた。異色の出版社はいかにして生まれたのか。

これからの組織や働き方、社会はどう変わっていくのか。それはVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代、多くの人が知りたいテーマだ。手がかりを求めて本を探すうち、本棚には英治出版の本が何冊も並んでいたーー。そんなビジネスパーソンも少なくないだろう。2021年だけでも『未来を実装する』『恐れのない組織』など話題の書が同社から出ている。

1999年、妻と埼玉県の自宅の一室で英治出版を立ち上げた原田英治氏。昔から本への思い入れが強かったのかと思いきや「僕自身はあまり本を読まない」と出版社の創業者らしからぬことを言う。聞けば、幼稚園の頃からの夢は、出版社の、というよりは、社長になることだったという。同じ年頃の男の子の多くが野球選手や電車の運転手、パイロットなどを夢見ていた時代、なぜ「社長」だったのか。

「今思えば洗脳されていたのでしょうが、当時、祖父が起こした印刷会社で専務をしていた父が、『後継者になるのは大変だよ。自分で会社を起こしてお父さんの会社を乗っ取るくらいの実力がないと経営者にはなれない』とよく言っていました。幼稚園生の息子にそんなことを言うくらいですから、本人もよほどつらかったのでしょうが、僕もまだ素直でしたから『将来は社長になって、お父さんの会社を乗っ取らなくちゃ』と思ったのです」

父は遊びや散歩の途中でもよく仕事の話をしてくれた。当時、印刷会社では職人が原稿を見ながら鉛などでできた活字を一文字一文字拾っていた。父から聞いたこんな話は今でも心に残っている。「職人さんたちは高校や大学には行っていないかもしれないけれど、すごい技術を持っているのだよ。そして一人一人ちゃん意見を持っている。だから尊敬の念を持って接しなければならないし、その人たちの意見をしっかり聞くことが経営者として大事なんだ」

父から伝授 「優秀な人の力を引き出す側に回れ」

その父から「お前はアイデアマンだな」と言われて育ち、成長するにつれ起業することはもはや自身の中で既定事項となっていった。埼玉県立大宮高校時代には米国に留学。その後、慶応義塾大学法学部に進んだのも、将来、事業を始めた際に人に騙されたりしない程度の法律的リテラシーをつけておこうという動機からだ。

大学時代は、自身も世話になったAFS日本協会という留学支援団体でボランティア活動に打ち込む。イベントの企画・運営や、留学生の派遣プログラムのリーダーを任され、プロジェクトマネジメントの基本を学んだ。しかし、原田氏にとって何よりの収穫は「自分がいなくても組織は回ることを知ったことだった」と振り返る。

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コンサルで修業 家業に転じたものの4年で挫折