人との縁で組織崩壊から再生 「デザインの力」を証明グッドパッチ社長 土屋尚史氏(下)

土屋尚史氏は社名にスタートアップの「patch(継ぎ当て)」になるという思いを込めた
土屋尚史氏は社名にスタートアップの「patch(継ぎ当て)」になるという思いを込めた

スマートフォンアプリやウェブサイトなどのデジタル分野を専門とするデザイン会社のグッドパッチは6月、東証マザーズに上場した。「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンを掲げている。創業から10年足らずでの上場は、はた目には順調なスタートアップ企業の軌跡と映るかもしれないが、実は何度もピンチに立たされてきたという。

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社長の土屋尚史氏がデザインに興味を持ったのは、iPhoneとの出合いがきっかけだ。シンプルで、使いやすく、しかも美しい――。そんなデザイン重視の世界観に心をわしづかみにされた。

様々なアプリを試すうちに、いいと思うアプリのほとんどは海外製であることに気づいた。シリコンバレー流のアプリ開発を現場で目にしたとき、その理由がわかった。開発の初期段階からデザイン重視の考え方が徹底していたのだ。

日本に足りないのはこれだ。そう気づいたことが創業につながった。しかし、上場までには数々の危機に直面した。そのたびに力となったのは、土屋氏の人柄がたぐり寄せた「人との縁」だった。

土屋氏は2011年9月、デザイナーの知人と一緒にグッドパッチを創業した。デジタルデザインのほかに、コワーキングスペースの運営など3つの事業を柱に据えた。ところが、半年もしないうちに、倒産の危機に直面してしまう。事業のどれもが中途半端で、うまく回らず、さらに共同創業者が辞めてしまったのだ。

「あっという間に僕1人になって、手元にはその先3カ月分のキャッシュしか残っていませんでした。デザインの仕事に集中しようと腹をくくりましたが、デザイナーがいないのですから、どうにもならない。僕は全体の設計はできても、細部の仕上げはできなかったんです。誰がどう見ても倒産する状況でした。でも、絶対に諦めたくなかった。こんなことでやめてたまるかと。周囲の人は誰もが半笑いでした」

グッドパッチが生き残るためには、何としてもデザイナーを探さなければならない。だが、東京には知り合いがいない。唯一、頭に浮かんだのは、前職の大阪時代のウェブデザイン会社の同僚だった。起業を目指して通ったデジタルハリウッド大学大学院の同窓生でもあった。

すがる思いで、スカイプでメッセージを送った。当時、相手は42歳で大阪で家族と暮らしていた。「遠隔で構わないので、手伝ってもらえませんか」。そう伝えると、ちょうどいま転職活動中で、すでに1社から内定をもらったところだという。

「それを聞いてがっかりしました。ところが、彼は、僕のデザインにかける思いに共感して、内定していた会社を断ってグッドパッチに来る決心をしてくれたんです。お金もなくて、時給1000円ぐらいしか払えないと正直に言いましたが、それでもいいと。本当にありがたくて、この人を絶対に裏切ってはならないと、心に誓いました」

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