では、引き合いに出された南フランスのシラーとは、どんなスタイルなのか。南フランスの中でも、高級シラーの産地として有名なのは、エルミタージュ地区を頂点とする北ローヌ地方だ。ローヌ川沿いの急傾斜地の畑で造られるシラーは、タンニンをしっかりと感じさせ、複雑な香りを帯びている。ロタンドンと呼ぶ白コショウの香りがはっきりと出ているのも、北ローヌのシラーの特徴だ。

ブドウにストレス与えて生み出す味わい

シラーは日本でも栽培されている。中でも、ロタンドンの香りがくっきりと出て北ローヌのシラーを彷彿(ほうふつ)させるものとして注目されているのが、長野県上田市にあるシャトー・メルシャンの椀子(まりこ)ワイナリーで造られているシラーだ。

「シャトー・メルシャン 椀子シラー 2019」はフランス・北ローヌのシラーを彷彿させる

椀子ワイナリーは上田市内の標高650メートル前後の風通しのよい丘の上に立つ。ワイナリー長の小林弘憲さんは、「ブドウの木が環境からストレスを受けるとロタンドンの香りの元となる物質が多く生成されて、ロタンドンの香りが強まる傾向がある。風が吹いてブドウの房が揺れたり、朝晩冷え込んだりするとブドウのストレスになる。そうしたストレスの重なりが、世界的にもユニークと言われる味わいの原因となっているのでは」と分析する。

もちろん、初めから北ローヌのスタイルを目指してシラーを植えたわけではなかった、という。「とりあえず日本の気候に合いそうな品種の1つとしてシラーを植え、収穫してみたら北ローヌのようなワインができた」と小林さん。まさに、ワインはテロワール(その土地の気候や土壌、地形などブドウの栽培に影響を与える要因)の産物と言われるゆえんだろう。

小林さんはまた、「ロタンドンはよく白コショウの香りに例えられ、生成量が増えると、山椒のような香りになる。だから、ロタンドンの香りがはっきりと出たシラーは、山椒の風味の効いた和食とよく合う」と付け加えた。

「シャトー・メルシャン 椀子シラー 2019」(6347円)

シラーは上に挙げた産地以外に、米カリフォルニア州やワシントン州、チリ、ニュージーランド、イタリア、スペインなど多くの国や地域で栽培されている。表記はシラーが目立つが、チリではシラーズと表記したワインも多い。テロワールや生産者の違い、さらには値段によっても、味わいは大きく変わる。ぜひ飲み比べして、ワインの奥深さを堪能してみてほしい。

(ライター 猪瀬聖)

※値段は税込み参考小売価格

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