慢性的な便秘も要注意
前述の腸年齢チェックリストでは腸年齢のアクセル要因として便秘に関わるものが4項目挙げられている。「加齢とともに増える便秘は自覚しやすい腸年齢の進行症状といえる」(内藤教授)。慢性的な便秘は老化を進行させるだけでなく、寿命にも関わるとする報告も多い。例えば、排便しようとして強くいきむと血圧が上昇し、心臓に負担がかかることが知られているが、米国で約336万人を約7年間追跡した調査では、便秘で下剤を使用している人は死亡リスクが有意に高くなり(図表4)、また、主に動脈硬化によって起こる冠動脈心疾患や虚血性脳卒中リスクが高くなった。

内藤教授は便秘と健康長寿の関係について「食事に含まれる脂肪の吸収を促すために胆汁酸が腸内に分泌されるが、これを腸内細菌が餌にしてできる二次胆汁酸は腸を動かしたり、便の水分量を整えてスムーズな排せつを促すのに欠かせない。二次胆汁酸は老化速度を遅らせる働きを持つ物質としても注目されている。しかし、便秘の人では一般に腸内の二次胆汁酸の量が低下する。たかが便秘、されど便秘。便秘の放置は危険だ。下痢傾向の人も大腸の水分調節機能が衰えている。思い当たる人は対策を取った方がいい」と説明する。
そのためにも心がけたいのはスムーズな消化吸収と排せつを維持することであり、有用菌の餌となる食物繊維類をしっかり取る食生活だ。腸の健康バランスを崩す「高脂肪食(特に動物性脂肪)」「食物繊維をほとんど含まない高糖質食」「高塩分食」といった偏った食生活はなるべく控えたい。「ドイツで行われた研究で、塩分の取り過ぎによって腸内の乳酸菌が減少し、Th17という炎症細胞が増加して血圧が上昇することが確認されている」(内藤教授)[4]。
今日から、腸年齢のアクセル要因を減らし、ブレーキ要因を増やす生活を始めよう。10年、20年後に腸はあなたにその恩恵をもたらしてくれるはずだ。
(ライター 柳本操)
京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授。京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学教室准教授、および同附属病院内視鏡・超音波診療部部長などを経て2021年より現職。炎症性腸疾患、腸内細菌叢、消化器病学を専門とする。
[1]J Clin Biochem Nutr. 2019 Sep;65(2):125-131.
[2]Nat Commun. 2021 May 11;12(1):2671.
[3]Cancer Prev Res (Phila). 2022 Jul 25;OF1-OF12.
[4]Nature. 2017 Nov 30;551(7682):585-589.