つまみはカレー 日本酒合わせ楽しむ「スパイス飲み」

「牧谿(もっけい)」の名物料理のひとつ「ウーロン豚咖哩(カレー)」(1100円)。煮出しウーロン茶で豚バラなどを煮込んだ“つまみ”にもなるカレーだ

インド料理などをベースとしたスパイス料理をつまみに酒を楽しむ酒場が人気を呼んでいる。中でもユニークなのが、「牧谿(もっけい)」(東京・千代田)。2020年2月にオープンした。

「カレーは、おつまみで召し上がる方もいますよ」

初めて訪れた同店で、そんな驚きの言葉をかけられた。以前はおでんの店だったという居抜きの店は、厨房の周りにL字型にカウンターがめぐり、しっぽり酒を傾けるのにうってつけの雰囲気だ。

料理メニューには、「ウーロン豚咖哩(カレー)」「キノコ雲南ミント炒」などと、どこの国の料理ともつかない不思議な名前が並び、あれもこれもと試してみたくなった。カレーはライス付きではない料理で、「カレーは頼みたいけど、白飯も頼むと多すぎるかなぁ。別のご飯ものも食べたいし」と悩み、店主の水野佳紀さんにアドバイスを求めたところ、先の言葉が返ってきたのだ。

オーダーした「ウーロン豚咖哩」の中には、ゴロゴロと脂たっぷりの豚バラの塊肉が入っていた。箸でこれをつまみ、パクリ。口に広がるスパイスの刺激を楽しみながら、ビールを流し込む。こんな風に食べるのは初めてだったが、これがいける。ルーも、ちょっとスプーンですくいながら食べて、また酒を一口。カレーはほんのりウーロン茶の風味がして、後味すっきり。シメにご飯と一緒に食べる客も多いそうだが、いい塩梅(あんばい)につまみにもなる味わいだ。

店主の水野さんは美術大学出身。名古屋から東京に出て、カレーの名店を食べ歩くうちに自分でも作りたくなった。根っから創作することが好きなのだろう。「ネットのレシピなどを見ながら作ったら、おいしくできたんです」と言う。ちなみに、牧谿とは13世紀中国の画僧。京都・大徳寺の国宝「観音猿鶴図」などで知られ、水野さんが大好きな画家なのだ。

料理の道に進みたいと強く考えていたわけではなかったが、大学卒業後勤め始めたのは、2011年に東京駅の八重洲地下街に1号店をオープンした南インド料理の名店「エリックサウス」。ちょうど、東京に南インド料理の店がぽつりぽつりと現れ、話題となり始めた頃で、同店はその先駆けだった。

元がおでんの店で、昭和の雰囲気が漂う店内。肩ひじ張らず、ゆっくり料理と酒を楽しめる空間だ。カウンターの中にいるのが水野さん

店のスタッフは、「超」が付くほどカレーが好きで研究熱心。閉店後、一緒にパキスタンやバングラデシュのカレーなども食べに行った。同店で数年修業した後は、1カ月ほどかけてインドを旅行。南インドだけでなく北東部のコルカタにも足を延ばすと、「南インドとはスパイスの使い方が違うな」と、スパイス料理の奥深さを感じた。

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中国人がカレーを作ったら……