
首都圏に移転又は新店を開業する各地の人気店が増えている。昨年来その動きは一段と加速している。各地に出向いた際に心動かされた「あの1杯」を、首都圏で手軽に食べられるようになったのは、ひとりのラーメンマニアとしては存外の幸せだ。そこで、今回は昨年オープンした店の中でも特に印象深い2店をご紹介しよう。その地を訪れないと味わえなかった一杯をぜひ、読者の方々にも堪能してもらいたい。
◎麺や福々三座(千葉・八千代緑が丘)
まず、ご紹介するのは2021年5月に千葉県八千代市内にオープンした『麺や福々三座』だ。
「私はもともと和食畑の出身。45歳の時に一念発起し、畑違いであるラーメン職人の世界へと飛び込みました。その後、京都市と金沢市でお店を出させていただきましたが、ラーメン作りは実に奥が深い。ラーメンという食べ物の本質が分かってきたという実感が持てたのは最近の話です」
そう謙虚に語る店主の福田三智男氏だが、かつて彼が京都市北山で営業していた『らーめん福三(ふくさん)』は、いまだに中高年のラーメンマニアに語り継がれる伝説になっている。金沢市内で切り盛りしていた『麺や福座』も、ラーメンに詳しい方なら誰もが知る実力店で、実際、私も『福座』の1杯を求め、夜行バスに乗って出向いたひとりである。

そんな名店の主が、ラーメン職人人生の最後に「全国一のラーメン店集積地である首都圏で勝負したい」と、『福座』を弟子に譲った上で、新天地として千葉の地を選んでくれたのは、僥倖(ぎょうこう)というほかない。「私も63歳。そろそろ、積年の夢をかなえたいなと思いまして」と福田店主。
現在、提供中の麺メニューは数種類あるが、中でも屋号を冠した豚骨しょうゆタイプの「福々」と、鶏白湯タイプの「三座」が二枚看板となっている。いずれも、店主自身がおいしいと感じる味をベースに、来店客の嗜好に合わせて調整を加えている。